日経サイエンス  2002年11月号

特集:日本人の肥満学

薬で肥満症を治す

齋藤康(千葉大学)

 肥満症にみられる合併症をそれぞれ別々に治療するよりも,減量をした方が効果的ということは容易に想像できる。しかし,長期間にわたって減量の効果を得ることは残念ながら難しいのが現状だ。肥満症の治療について知っておかなければならないのは,これは糖尿病や高血圧と同じように慢性の病気であり,まれにしか“治癒”することはなく,ほとんどは一時的によくなるにすぎないという点だ。

 

 肥満症の治療でメインとなるのは食事療法である。これを補助するものとして,「深夜に食べる」「早食いである」などといった食行動パターンを見直す行動療法も行われる。減量効果を高めるだけでなく,落とした体重の維持にも効果的な方法とされている。また,運動療法も役立つ。

 

 しかし,これらの治療をしても,減量した体重を維持できるのは5%程度といわれている。祝い事にはごちそうを出し,もてなされたら「残すのは失礼」という風習のある日本では,減量もさることながら,減量後の体重を維持するのは社会的な困難さえつきまとう。さらに高血糖・高脂血症・高血圧といった肥満症の代表的な合併症は,程度の軽いうちは自覚症状がないため,本人が深刻に受け止めないことも減量体重の維持を難しくしている。

 

 近年になって,肥満の複雑な発生メカニズムや体内のエネルギーバランスの仕組みが細胞レベル・分子レベルでわかるようになり,肥満症治療薬の開発が可能になっている。日本で現在,認可されている肥満治療薬は,食欲中枢に働きかける「マジンドール」という薬しかないが,海外ではこのほかにもいくつか使われており,日本で臨床試験中のものもある。(本文から)

著者

齋藤康(さいとう・やすし)

千葉大学医学研究院細胞治療学(第二内科)教授,医学博士。2002年の日本糖尿病合併症学会会長。鬱々とした日々を過ごしていると,患者さんにも良い接し方ができなくなるとの考え方から,「楽しい日々を送れ」をモットーに掲げている。

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