日経サイエンス  2002年11月号

特集:日本人の肥満学

肥満に弱い日本人

吉田俊秀(京都府立医科大学)

 日本でも食生活やライフスタイルの欧米化に伴い,肥満人口は増加の一途をたどり,今や推計2300万人に達している(男性1300万人,女性1000万人)。このうちの約半数は病気を持たない“健康な肥満者”である。残りの半分にあたる1100万人は糖尿病や高脂血症,高血圧症,膝関節症などの生活習慣病を合併しており,これが医師の治療を必要とする「肥満症」である(肥満と肥満症の違いはフローチャートを参照)。

 

 医師の立場から言えば,健康な肥満者は何ら問題ない。太っているのは個性の1つであり,減量する・しないは本人の自由だ。しかし,肥満症ははっきりとした病気であり,見過ごすことはできない。肥満症の人は体重を落とすだけで糖尿病などの種々の生活習慣病を改善することができ,これらの根本的な解決にもつながる。本人のクオリティ・オブ・ライフ(QOL,生活の質)がよくなるだけでなく,医療費の削減にもなる。

 

 

高度肥満者は少ないがやせにくい人が多い

 多くの読者はテレビなどで100kgを軽く超えそうな欧米人を見たことがあるだろう。200kgを超える高度肥満者さえブラウン管にしばしば登場する。ところが日本人でここまで太った人はそれほど多くない。それは後述するように,統計にもはっきりと現れている。なぜか? 

 

 答えを一言で言ってしまえば,日本人は高度肥満になる前に糖尿病などを発病してしまうので,高度肥満になる時間的余裕がないのだ。日本人は肥満に弱く,健康な肥満になりにくいと言い換えてもよい。白人ではBMIが25以上になっても,それほど深刻な状態にはならないことが多いが,日本人ではそうはいかない。

 

 もう1つ日本人の肥満症を語るときに忘れてはならないのは,「倹約遺伝子」とか「肥満遺伝子」などと呼ばれている遺伝子の存在だ。現在では肥満とヤセに関係する遺伝子がいくつか知られている。日本人は太りやすい遺伝子を持つ人が多く,やせやすくする遺伝子を持つ人が少ない。このため,肥満症に陥ってしまったときに,減量の難しい人が多い。

 

 肥満症の治療では,食事療法を続けられずにドロップアウトする患者が非常に多く,またせっかく減量してもその体重を維持できない場合が多い。臨床医として多くの肥満症患者を診ている経験からすると,遺伝的な体質を本人に知ってもらった上で減量計画を立てた方が成功する率も高く,その後も維持しやすい。こうした遺伝子診断に基づいたテーラーメード減量計画の実践例を紹介したい。(本文から)

 

何キロから肥満?

 

男性ではBMIが22.2,女性では21.9のときに疾病合併率が最低になる。そこで男女ともBMIが22を標準体重(表の太字)とし,18.5以上25未満を正常範囲,25以上30未満が1度の肥満,30以上35未満が2度の肥満とした。赤文字はBMIが25のときの体重。

著者

吉田俊秀(よしだ・としひで)

京都府立医科大学病院教授,内分泌・糖尿病・代謝内科診療部長,医学博士。臨床医として肥満関連遺伝子を調べた上でのテーラーメード食事指導を実施する一方で,β3-アドレナリン受容体に着目した抗肥満薬開発の研究をしている。

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