日経サイエンス  2002年11月号

特集:日本人の肥満学

 肥満が津波のように人々を襲い,健康のみならず社会的,経済的な面で大きな負担と損失をもたらしている──日本肥満学会が1999年に発表した「東京宣言」の前文だ。

 肥満は糖尿病や高脂血症などの生活習慣病を招くだけでなく,これらが原因となって動脈硬化をもたらし,放置しておけば心筋梗塞や脳梗塞といった命とりとなるような発作につながりかねない。若い女性が必要以上にやせたがるのに対して,中高年の男性は一般に肥満に対してそれほど深刻にはならない。「恰幅がよい」「貫禄がある」といったほめ言葉は,おもに中高年の男性に対してだけ使われる。

 

 

状態としての「肥満」と病気としての「肥満症」

 もちろん,すべての肥満が悪いわけではない。肥満は単に体重が重い状態を指すが,健康を脅かすようになると「肥満症」と診断される。カギとなるのは内臓脂肪だ。

 下に載せたのは日本肥満学会が作った肥満症診断のフローチャートだ。体重(kg)を身長(m)の2乗で割ったBMI(ボディー・マス・インデックス,体格指数)が25以上であれば「肥満」となるが,すぐに治療の対象となるわけではない。肥満による健康障害があれば肥満症となる。また,今は健康でも,将来的なリスクの高い内臓脂肪型の肥満とわかれば肥満症と診断される。

 診断基準となる健康障害は糖尿病,高脂血症,高血圧,脂肪肝など,減量すれば症状の改善が期待できる10の項目だ。胆石や大腸ガン,子宮ガン,前立腺ガンなども肥満と関連する疾患だが,減量を待たずに急いで治療する必要があるので肥満症の診断基準には含めない。

 米国などに比べると,日本人の高度肥満者はずっと少ない。それなのに糖尿病をはじめ肥満と関係の深い生活習慣病の患者は多い。長い間,この点は謎とされてきたが,ようやく光が見えてきた。また,肥満が生活習慣病をもたらすことは経験的に知られていたが,その分子メカニズムがわかってきたのは最近のことだ。この分野の研究では日本人研究者の活躍がめざましく,大いに注目されている。

 研究は進んでいるものの,日本の当局は「肥満は個人の責任」と位置づけ,抗肥満薬の使用に関してはきわめて慎重だった。肥満そのものへの理解が深まれば,こうした状況も変わっていくことだろう。(編集部)

 

あなたはただの肥満? それとも肥満症?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肥満に弱い日本人  吉田俊秀 

 

肥満がなぜ病気を招くのか  松澤佑次 

 

薬で肥満症を治す  齋藤康

 

女性に広がる“肥満恐怖症”  詫摩雅子(編集部)

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