日経サイエンス  2002年8月号

卓上レーザーが放つ地上最強の光

G.A. ムルー D. アムシュタッター(ともにミシガン大学)

 1980年代半ばに発明されたレーザー光増幅法によって,新世代の卓上型レーザー装置が可能になった。超高輝度の極めて短い光パルスを作り出す。高解像度の医療用画像装置や安価で正確な放射線治療,核融合,物理学のさまざまな研究などに応用が期待できる。

 

 大出力レーザーといえば米国立ローレンスリバモア研究所が運転していた「ノバ」が有名だが,膨大なエネルギーを消費し,1日に数度しか運転できなかった。これに対し,もっと短い時間幅のパルスにエネルギーを集中することによって,瞬間的に大出力を達成する新タイプのレーザー装置が実現した。チャープ・パルス増幅(CPA)と呼ぶ技術を使うのが特徴だ。光パルスを時間的に引き伸ばし,通常の光増幅器で強めてから再び圧縮する。これによって全世界の発電所を合わせた出力をも上回る10テラ(テラは1兆)ワットの高輝度レーザーパルスも作り出せる。

 

 こうした強い光は従来とは違った形で物質に作用する。例えば電子を突き動かして,わずか1000兆分の数秒のうちに光速近くまで加速する。「航跡場加速」という新しい原理に基づくコンパクトな粒子加速器ができ,物理学の実験や医療用の粒子加速に応用可能だ。優れたX線源にもなり,レントゲン写真の解像度を飛躍的に向上できる。核融合反応の引き金を引く“点火プラグ”として利用する研究も進んでいる。

 
 

再録:別冊日経サイエンス202「光技術 その軌跡と挑戦 」

著者

Gerard A. Mourou / Donald Umstadter

2人は全米科学財団(NSF)が資金提供しているミシガン大学の超高速光科学センターの設立メンバー。ムルーは同センターの所長で電子工学科教授。アムシュタッターは原子力工学科と電子工学科の助教授。高輝度レーザーで粒子を加速する実験に忙しいが,実験室にいないときにはゲレンデでスキーを楽しみ,自らを超高速に加速している。

原題名

Extreme Light(SCIENTIFIC AMERICAN May 2002)

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