日経サイエンス  2002年6月号

テレビが消せない-依存を生む心理

R.クービー(ラトガーズ大学) M. チクセントミハイ(クレアモント大学院大学)

 多くの人は,テレビに対して愛憎の入り交じった感情を抱いているはずだ。くだらない番組やカウチポテト族の悪口を言いながら,自分もソファに座ってリモコンを握る。子どもがテレビを見ていると,親はたいていイライラする。もっとも自分が見ている場合は別なのだが。

 

 現代人はテレビ視聴に驚くべき時間を費やしている。先進国の人々は,平均して1日に3時間テレビを見る。これは余暇時間の半分を占めており,仕事と睡眠を別にすると最も長い。75歳まで生きた場合,9年間をテレビの前で過ごす計算になる。

 

 これはそれだけ人がテレビを楽しみ,自らの意思でテレビを見ることを選択している結果に過ぎないという意見もある。しかしそれだけの話なら,なぜこれほど多くの人が自分のテレビ視聴時間を気にするのだろうか。

 

 1992年と1999年のギャラップ社の世論調査によれば,成人の4割,10代の若者の7割が,「テレビを見すぎている」と回答している。他の調査でも,成人の約10%が自分は「テレビ中毒」だと思うと答えている。

 

 「テレビ中毒(依存)」という言葉は今のところ明白な定義がないが,現実に起きている現象の本質をとらえた表現だ。心理学者と精神科医は,麻薬やアルコールなどの「物質依存」を,以下のような特徴をもつ障害として定義している。その物質を使用するのに多くの時間を費やす,意図しているよりもひんぱんに使用する,使用を減らそうと思う,または減らそうとして失敗を繰り返す,使用によって人間関係や家族とのかかわり,仕事を犠牲にする,使用をやめたときに禁断症状が出る。

 

 以上はすべて,テレビをたくさん見る人にも当てはまる。テレビを見ることそのものが問題だというのではない。テレビは娯楽や教育の機会を提供し,気晴らしや逃避の手段にもなる。なかには芸術性の高い番組もある。

 

 テレビ視聴が問題になるのは,テレビを見すぎだと強く感じていながら,どうしてもやめられないときだ。テレビがどのようにその誘引力を発揮するのかがわかれば,テレビを見すぎてしまう人が生活をコントロールするのに役立つだろう。

著者

Robert Kubey / Mihaly Csikszentmihalyi

クービーとチクセントミハイは,1970年代半ばにシカゴ大学で出会った。クービーは博士論文を書き始めたところで,チクセントミハイは研究者として勤務していた。クービーは現在,ラトガーズ大学の教授で,メディア研究センター長をつとめている(www.mediastudies.rutgers.edu)。研究テーマは,世界におけるメディア教育の展開だ。私生活ではテレビを楽しみ,2人の息子(ベンとダニエル)とテレビゲームをすることもある。チクセントミハイは,現在クレアモント大学院大学の心理学の教授で,米科学芸術アカデミーの会員でもある。夏は新聞もテレビもないモンタナの山奥で過ごし,論文を執筆したり,孫たちや訪れる客とハイキングを楽しんだりしている。

原題名

Television Addiction(SCIENTIFIC AMERICAN February 2002)

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