日経サイエンス  2002年4月号

地球史を支配した水 スーパープルームのダイナミクス

丸山茂徳(東京工業大学)

 火星の表層は赤茶け,猛烈な暴風と低温にしばしば見舞われる。表面には海はおろか液体の水すらない。不毛地帯が一面に広がる“死の世界”とも言える。地球と違って,少なくとも表層で生物が生き延びるのは不可能だ。

 

 だが,火星はかつて表層に水を豊かにたたえ,海に覆われていた。花崗岩の地殻が形成され,プレート運動もあったはずだ。生物がすんでいた可能性も大きい。実際,その証拠が次々と見つかっている。

 水は地殻変動の原因になるプレートの運動とも密接に結びついている。最近の地球科学の研究成果によって,鉱物や岩石の間にごく少量の水が存在しているだけで,プレートがマントルに沈み込みやすくなることがわかってきた。

 

 プレートとともにマントル層に運ばれた水はマントルの対流を促し,プレート運動を活発化させる。また「スーパープルーム」というマントルの大規模な上昇流を引き起こし,過去の地球で起きた超大陸の離合集散の原動力になった。

 

 生命の誕生や進化も水なしには不可能だった。生物の大量絶滅や爆発的繁殖は,地球深部に及ぶ海水のダイナミックな移動が原因になった可能性が大きい。地球ではおよそ7億5000万年前,表層の海水がマントル層へと逆流を始め,これがきっかけになって生物が爆発的に進化した。

 

 水と固体地球との相互作用は,表層の環境や生物の進化にきわめて大きな役割を果たしてきた。地球表層の変動を支配する「プルームテクトニクス理論」を詳しく紹介するとともに,プルームテクトニクスが生物の進化にどんな影響を及ぼしてきたか,最新の研究成果を明らかにする。

著者

丸山茂徳(まるやま・しげのり)

東京工業大学大学院理工学研究科教授(地球惑星科学専攻)。2000年からスタンフォード大学教授を兼務。1949年,徳島県生まれ。1989年,東京大学助教授に就任し,およそ38億年前のプレートテクトニクスを実証した。1993年から現職。1994年,プルームテクトニクス理論を提唱し,科学技術庁(当時)の「全地球ダイナミクス」計画で中心的な役割を果たした。全地球史の解読を目指して,世界各地のフィールドで内外の多くの科学者と共同研究に取り組んでいる。2001年2月,米国科学振興協会(AAAS)のフェローに選ばれた。