日経サイエンス  2001年5月号

量子力学100年の謎

M.テグマーク(ペンシルベニア大学) J. A. ウィーラー(プリンストン大学名誉教授)

 量子力学が誕生して100年になるが,華々しい成功の陰で,いまだに解き明かされていない謎がある。 この論文は量子力学の最初の100年の総合報告だが,特にその謎に焦点を当てている。量子力学の意味について議論が続いており,量子コンピューター,意識,多世界理論,物理学的実在の性質など最新の話題があるからだ。量子力学が可能にした現代技術は,驚くほどの広がりをもつ。今日では米国の国民総生産の30%は,量子力学の応用で実現した発明品が占める。コンピューターチップ中の半導体から,コンパクトディスク(CD)プレーヤーのレーザー,病院での磁気共鳴画像装置(MRI)などだ。

 

 19世紀末には科学者はかなり楽観的だった。それは古典力学と電磁気学は産業革命を推進し,マクスウェルの基礎方程式は本質的にすべての物理学的なシステムを記述できるようにみえたからだ。しかし,少数の悩ましい事柄がこの見方に影を落としていた。その1つが,高温の物体から放出される光のスペクトルが正しく計算されないことだった。古典物理学的には,紫外破局という理論的予想がある。これが正しいとすると,ストーブの上の真っ赤な部分からは,無限に多くの紫外線やX線が出てきて,目を開けていれらないというおかしな結果になる。

著者

Max Tegmark / John ArchibaldWheeler

 テグマークはペンシルベニア大学助教授。ウィーラーはプリンストン大学名誉教授。2人はテグマークがプリンストン高等研究所に3年半研究員として滞在した間に,広く量子力学について議論した。ウィーラーはファインマン(RichardFeynman)や多世界理論の提唱者のエヴェレット(Hugh Everett ・)の先生でもある。彼は1977年ウォルフ物理学賞を原子核反応,量子力学,ブラックホールの研究で受賞した。1934~1935年にウィーラーはコペンハーゲンにあるボーアの研究所に招かれ,原子核物理学を研究することになった。研究所に到着すると,彼は壁のつたを整えている庭師に,どこでボーアに会えるかと尋ねた。実はその庭師がボーアだったという。 2人はベネット(Emily Bennett),フォード(Ken Ford)に初期の原稿への助言と,クライン(Jeff Klein),ゼー(DieterZeh),ズーレック(Wojciech H. Zurek)の有益な批評に感謝している。

原題名

100 Years of Quantum Mysteries(SCIENTIFIC AMERICAN February 2001)