日経サイエンス  2001年4月号

幻のダマスカス剣を復元する

J.D. バホーベン(アイオワ州立大学)

 かつてイスラム教徒の国々では,すぐれた鋼の剣がつくられていた。この剣はダマスカス剣とよばれ,切れ味鋭く,よくしなり,しかも硬く頑丈だった。イスラム教徒と戦った十字軍遠征の時に,西洋人は初めてこのダマスカス剣に出会った。

 

 この剣の刃の表面には,「ダマスク」や「ダマスコ細工」と呼ばれている波形模様が見えるのが特徴だった。

 

 美しく丈夫なダマスカス剣は,西洋の王侯貴族の憧れだったが,剣を故郷に持ち帰り細かく調べても,ダマスカス剣を復元できなかった。さらに,剣がつくられていたダマスカス(現在のシリアの首都)でさえ,200年ほど前にその製造技術が失われてしまった。

 

 ダマスカス剣に魅せられた著者バホーベンは,刀鍛冶ペンドレー(Alfred H. Pendray)と協力し,失われた技術の復元を試みた。そして,オリジナルの剣と同じ原料をつくることから始め,波形ダマスク模様をもち,化学組成も微視的構造も同一の剣を復元した。

 

 

再録:別冊日経サイエンス210「古代文明の輝き」

著者

John D. Verhoeven

アイオワ州立大学の材料科学技術科の名誉教授。ミシガン大学の大学院生の時からダマスカス剣の謎に関心があった。彼は1982年から,ダマスカス鋼を復元する研究に取り組み始めた。この研究は,最初は趣味の類だったが,何年も刀鍛冶のペンドレーと共同研究している間に,本格的な研究に発展した。

原題名

The Mystery of Damascus Blades(SCIENTIFIC AMERICAN January 2001)