日経サイエンス  2000年10月号

熱を帯びる分子コンピューター開発

M.A.リード(エール大学) J.M.ツアー(ライス大学)

 最近,分子エレクトロニクス分野で目を見張るような進歩が起こっている。この分野は,分子を使ってトランジスタ,ダイオード,導線など,今あるエレクトロニクスの主要部品と同じ機能を実現しようというアイデアから始まった。長い間,期待されたような成果は出なかったが,ここ数年の技術の進展によって,次世代の超微細・超高密度のコンピューター用論理回路部品を作る技術になり得るという期待が高まってきた。そして実際に個々の分子が電気を流し,スイッチとして働き,情報を蓄えられることを,いくつもの研究グループが証明した。

 

 昨年7月,この分野のニュースが一般紙の紙面を飾った。ニュースとは,ヒューレット・パッカード(HP)とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究者が,ロタキサンという有機分子数百万個からなる分子膜を使ってスイッチを作ったという発表だった。さらに,この分子スイッチをつなぎ合わせて,基本的な論理操作をするANDゲートを組んでみせた。1つのスイッチに100万個以上の分子を使っているのだから,このスイッチは分子素子の理想よりもずっと大きい。おまけに,このスイッチは1回使っただけで動かなくなってしまった。それでも,分子スイッチをつなぎ合わせて論理ゲートを作ったことに,大きな意義がある。

著者

Mark A. Reed / James M. Tour

2人は1990年に分子エレクトロニクスの共同研究を始めた。リードはエール大学電子工学科学科長で,ハロルド・ホジキンソン教授。ナノテクノロジーと電子伝導の本質的限界の研究に興味がある。テキサス・インスツルメンツの元研究員,最近,分子エレクトロニクスを商業的に実現するため,シカゴに分子エレクトロニクス会社をツアーと共に設立した。100本以上の論文の著者で,量子効果,ヘテロ接合,分子素子に関する17の特許を持つ。
 ツアーは有機合成を専門とする化学者で,10年間にわたり分子エレクトロニクスのための分子設計と合成をしてきた。現在,ライス大学化学科とナノスケール科学技術センターに勤務,分子素子の化学的な側面を追求している。その前は,11年間サウスカロライナ大学化学科に勤めていた。

原題名

Computing with Molecules(SCIENTIFIC AMERICAN June 2000)