日経サイエンス  2000年6月号

特集:火星 有人探査のシナリオ

ステップ2 フォボス,ダイモスを中継地に

S. F. シンガー(科学環境政策プロジェクト)

 火星の衛星フォボスとダイモスは火星探査を準備するための理想的な基地になる。

 

 最近ロボット衛星を使う宇宙科学者の多くは,私も含めて,有人飛行反対の立場からやや穏健な立場へと徐々に変わってきた。なぜなら,特殊な状況下では,人間を宇宙へ送ることは単なる高価な曲乗り飛行ではなく,ロボットを送るよりも費用対効果が高い場合もあると,最近気づいたからだ。火星探査もそんな特殊なケースの1つだ。

 

 宇宙飛行士の基本的な利点は,彼らが火星を実時間で探査でき,通信の遅れもなく,新しい実験で導かれた興味深い結果をさらに追求する能力を持っていることだ。過去数十年間,ロボットに完全な自律性を与える研究が続けられたにもかかわらず,いまだにロボットは作業する際に人間が介在しないと仕事を処理できない。ここで疑問が湧く。では宇宙飛行士はどこにいれば良いのだろうか。「火星表面」という当たり前の答えが,必ずしも最も能率が良いとは限らない。1981年の第1回「火星の場合(ケース・フォア・マーズ)」国際会議で,最も挑戦的な結論の1つは,火星の2つの衛星,フォボスとダイモスが比較的安価な「上陸拠点」の役割を果たせるというものだった。

著者

S. Fred Singer

米国バージニア州フェアファクスにある科学環境政策プロジェクト議長,ジョージ・メーソン大学教授。第2次世界大戦後,押収されたドイツ製のV-2ロケットを使い,上層大気と地球近くの宇宙空間の研究を始めたパイオニアで,米国気象衛星センターの初代所長を務めた。また,宇宙線照射による同位体異常から隕石の絶対年代を測定する方法を考案したり,火星の衛星の起源と進化について初めて研究した人物の1人でもある。

原題名

To Mars by Way of Its Moons(SCIENTIFIC AMERICAN March 2000)