日経サイエンス  2000年6月号

サイエンス・イン・ピクチャー 

原色の花が誘う南米の森

文:G.マルティネリ(リオデジャネイロ植物園研究所) 写真:R. アゾーリ

 ブラジルの大西洋岸はかつて深い森林に覆われていた。鬱蒼とした緑の広がりは140万km2に及び,その生物多様性はアマゾンに匹敵していた。このマタ・アトランティカ(大西洋岸の森)は,今日では小さな切れ端が残されているにすぎない。もともとの森のうち,サトウキビやコーヒーを栽培する農民のマチェッティ(先住民の使うなた)や,きこりの斧を免れたのはわずか8%。この森の断片は人口密度の高い東部沿岸地方に散在していて,自然保護区になっている林もあれば,私有地に含まれる林もあり,大都市の中や周辺にかろうじて残されているものもある。こうしたマタ・アトランティカの断片はブラジルで最も危機に瀕した生態系で,貴重な植物のグループ,ブロメリア科の多くの種にとって最後の避難場所となっている。

 

 ブロメリア科は驚くほど多様な植物群だ。その仲間でよく知られているのは,パイナップルや水や土なしで手軽に楽しめるエアープランツだが,ブロメリア科には美しくカラフルな花を咲かせるものが多い。56属3146種・亜種のうちの半数以上が,樹木の幹や岩などに根で付着する着生植物で,土からではなく空気中や露から水分を吸収する。着生植物の中には,葉がバラの花のように重なり合ってできた筒状のロゼットに水を蓄え,その中に完全な微小生態系を養っているものもある。たとえば,マタ・アトランティカ南東部の山地の草原地帯に生育する巨大な種,アルカンタレア・インペリアリス(Alcantareaimperialis)は,30リットルもの水を蓄えることができる。この葉でできた貯水槽の中から900種類以上の生物が見つかっている。

著者

Gustavo Martinelli and RicardoAzoury / サバ・プレス

2人は,1997以来ブロメリア・プロジェクトで協力しており,残存するマタ・アトランティカをできる限り多く訪れ,この珍しい植物の仲間を採集し,写真に収めてきた。マルティネリ(上の写真)は1972年からリオデジャネイロ植物園研究所に植物学者として勤務。スコットランドのセント・アンドリュース大学で生態学の博士号を取得し,マタ・アトランティカを研究するために故国ブラジルへ帰った。アゾーリはサバ・プレスの写真記者で,環境問題を専門としている。長くアマゾンの熱帯雨林を手がけてきた。また取材のために各地を旅し,南アフリカでサメの写真を撮ったり,ハドソン湾のチョウザメを撮影したりしている。2人はブラジル・コカコーラ社と科学技術開発評議会によるプロジェクトへの資金援助に対して謝意を表している。

原題名

The Bromeliads of the Atlantic Forest(Scientific American March 2000)

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