日経サイエンス  2000年4月号

特集:リニアモーターカーの行方

足踏みするドイツの計画

澤田一夫

 ドイツは列車に普通の電磁石を使う方式のリニアモーターカー「トランスラピッド」の開発を進めている。研究の歴史は古く,1934年に吸引式磁気浮上の基本特許が成立している。磁石の吸引力を利用して列車を浮上させる方式だ。ただその研究は,戦争のため陽の目を見ることはなかった。戦後,1960年代に入ると,フランスや英国を中心に空気浮上式の高速鉄道の研究開発が盛んになったが,西ドイツ(当時)では1966年以降,磁気浮上の開発が進められ,1970年以降は国家プロジェクトとして,研究技術省が推進するようになった。

 

 同省は1970年代半ばまで小規模の実験線を使って各種方式の研究を実施,そのデータを比較検討した。その結果,1977年,通常の電磁石を利用した吸引式磁気浮上を本命として研究開発を本格的に進めることを決めた。

 

 研究開発の進展を受け,新首都ペルリンとドイツ第2の大都市ハンブルクを結ぶ新たな動脈として,リニアモーターカーによる新線建設が1994年3月に閣議決定され,連邦議会は同年11月,磁気浮上式鉄道計画法を承認,発効した。

 

 ただ,環境保護派からの反対や,採算性に対する疑問の声が高まっており,政権交代もあって,プロジェクトは計画通りに進まなかった。1999年9月には複線を単線に変更し,2007年の開業を目指すことになった,などのニュースが伝えられたが,今年2月,計画断念が発表された。

著者

澤田一夫(さわだ・かずお)

鉄道総合技術研究所浮上式鉄道開発本部技師長。東京大学工学部電子工学科を卒業後,国鉄(当時)に入社。一貫してリニアモーターカーの研究開発に取り組む。1987年の国鉄民営化後は,財団法人鉄道総合技術研究所(旧国鉄の鉄道技術研究所)で,引き続き宮崎実験線と山梨実験線でのリニアモーターカーの開発に携わる。