日経サイエンス  2000年3月号

巣を乗っ取る女王アリ

H. トポフ(アメリカ自然史博物館)

 普通のアリと違い,サムライアリの働きアリは食物を集めたり幼虫や女王を養ったりせず,自分の巣を綺麗に掃除することもしない。そこでサムライアリは生きるために,自分たちと系統的に種が近いヤマアリ(Formica)属の働きアリを手に入れて雑役をさせる。サムライアリの働きアリは1500匹ほどで定期的に奴隷狩りに出かけ,ヤマアリの蛹(さなぎ)を略奪する。

 

 私はこれまで,1つの強い目的をもってサムライアリを研究してきた。自分たちで自らを養えないサムライアリは“必然的な社会寄生”をする。これが,どのような適応のもとに成り立つかという問題だ。そこでまず,サムライアリの特異的な行動に焦点を当てた。サムライアリの女王はたった1匹でヤマアリの巣を侵略するのだ。

 

 若い女王は初めて生んだ子供を奴隷の助けなしに育てることができない。そこで彼女は全く不可能とも思える作戦に挑む。彼女はヤマアリの巣に侵入し,そこの女王を殺してヤマアリの働きアリたちに受け入れられようとする。しかも1匹の仲間の手も借りずに,それを完遂しなければならない。

 

 サムライアリの若い女王はヤマアリの巣に侵入すると,ヤマアリの働きアリたちを押し飛ばして,相手の女王に突進する。サムライアリの女王はヤマアリの女王をつかんで体中のいたる所を容赦なく25分間も噛み続ける。彼女は争いの間中,瀕死の犠牲者の体液をなめる。そしてヤマアリの女王が死んだ瞬間,巣には劇的な変化が起きる。ヤマアリの働きアリたちは急におとなしくなり,サムライアリの女王へ静かに近づくと,これまで自分の女王にしたようにグルーミングを始める。

著者

Howard Topoff

ニューヨーク市にあるアメリカ自然史博物館の動物行動学部で,軍隊アリの研究をしているうちに社会性昆虫に関心を持つようになった。同博物館とニューヨーク市立大学の共同プログラムで1968年にPh. D. を取得した後,学芸員として同博物館に勤めだし,軍隊アリの社会行動の野外調査を続けた。現在は,ニューヨーク市立大学ハンターカレッジの心理学部教授だが,研究の基盤はすべて野外調査にあり,もっぱらアリゾナ州チリカフア山脈にある同博物館の西南地方研究センターで研究している。トポフは研究や授業の合間を縫って,小・中学生や高校生,学生,一般の人々向けにマルチメディアを使った科学番組を作っている。質問があれば,htopoff@aol.comまで。

原題名

Slave-Making Queens(SCIENTIFIC AMERICAN November 1999)

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サムライアリ