日経サイエンス  2000年3月号

深海底の“燃える氷”メタンハイドレート

E. シュース G. ボーマン J. グレイナート E. ローシュ(ドイツ・クリスチャン・アルブレヒト大学海洋地球科学研究センター)

 それはスリリングな瞬間だった。巨大な金属製の顎(あご)のような海底サンプラー(試料採取装置)の口が開き,深海底から引きずりあげてきた“獲物”を,私たちの調査船「ゾンネ」の甲板上にどさっと広げた。泡だつ雪のような白い物質が,黒い泥の中でキラキラと光っていた。眼前でそれが融けるのを見ながら,私たちは,ついに“宝物”を見つけだしたと感じていた。

 

 海底から引き上げたのは,凍った水分子の“かご”(結晶)の中にメタン分子が入っている「メタンハイドレート」という物質だ。私たちは,まさにこのメタンハイドレートを探し求めていた。

 

 メタンハイドレートは,日本列島沖から米国オレゴン州沖にかけての北太平洋や,中米コスタリカ沖,米国東岸ニュージャージー州沖など,世界各地の海で大量にその存在が確認されている。その総量は,現在知られている全世界の天然ガスと原油,石炭の総埋蔵量を合わせた量の2倍以上(炭素換算で)はあると考えている。もし,将来,実用的な採掘技術が考案されたら,海底のメタンハイドレートはエネルギー不足に悩む世界を救う新たな燃料供給源になりうる。また,この“燃える氷”が融け,大気中に膨大なメタンが放出されれば,地球温暖化が大幅に加速される可能性がある。

著者

Erwin Suess / Gerhard Bohrmann / Jens Greinert / Erwin Lausch

シュースとボーマン,グレイナートの3人はドイツ・キールにある海洋地球科学研究センター(GEOMAR)の海洋環境地質部で働いている。シュースは1988年の同部設立当初から部長を務め,1995年から研究センターの所長でもある。ボーマンは試料(コア)保管室の室長。GEOMARは,科学分析に利用できる海洋堆積物サンプルの貴重なコレクションを誇る。グレイナートはポスドクの研究者。3人は,メタンハイドレートと冷水湧出系の研究で世界をリードするグループの1つを構成している。ローシュは科学記者で,GEOMARの評議員会のメンバー。

原題名

Flammable Ice(SCIENTIFIC AMERICAN November 1999)

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