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◆優秀賞[SGI賞]◆
生まれたての星周辺における,高温プラズマ流形成のシミュレーション研究
林満(はやし・みつる)
  国立天文台・天文学データ解析計算センター研究員
 
図1  円盤に捻られて 膨張する磁力線
 
図2  中心星からの距離が異なる場所で円盤を貫く磁力線の振舞い
 
 太陽程度の質量の星は,分子雲の中心部で低温度星として生まれ,収縮に伴って温度が上昇し,やがて内部で核融合の火がともると考えられ,特に,生まれたての星は氷点下250度程度の極寒の世界で静かに進化して行くものと考えられていた。しかし,日本のX線観測衛星「あすか」をはじめとするX線観測衛星は,上記の様な,星が生まれる現場から,数千万度から1億度の高温プラズマから放出されるX線を検出した。生まれたての星からX線が検出されたということは,星の誕生は,冷たい世界で静かに進行するものと考えられていた従来の「定説」を覆し,星の誕生期は想像を絶する激動の時期であることを示し,新たな問題を天体物理学に投げかけることとなった。
 我々は,太陽フレアのメカニズムを生まれたての星のシステム(中心星-降着円盤システム)に適用し,中心星の双極子磁場と星の周囲の降着円盤の相互作用によって,磁気ループの膨張,磁気ループ内部で生じる磁力線のつなぎ変わりという一連の過程によって,磁場のエネルギーが爆発的に解放され,高温高速のプラズマ流が形成されるモデルで上記天体現象が説明できることを提案し,電磁流体シミュレーションを実行し,IDL,AVS等で可視化を行ない,シミュレーション結果を解析した。
 図1は,円盤を貫く中心星が持つ双極子磁場が,円盤にひねられることで膨張する様子を示している。半透明の青い円盤(密度を表示)の中心に生まれたての星があり,中心の星から出ているカラーの線が双極子磁場の空間構造を示している。中心星から同じ距離で円盤を貫く磁力線を表示した。
 図2は初期に同一平面内にある複数の磁力線が,円盤に捻られ変化した空間構造を表示した。中心星付近では磁力線が巻き込まれ,磁力線の輪が形成されている。磁力線がつなぎ変わり,爆発的に高温・高速プラズマ流を形成する場所付近では,円盤の回転方向の磁場成分が卓越していることが分かる。
 シミュレーションの結果においては,星の半径の数倍の磁気ループの活動によって,数千万度の温度で,数百km/sの速度を持つ高温・高速のプラズマの流れが実現され,我々のモデルが定性的・定量的に生まれたての星で起きる顕著な現象を説明できることが示された。宇宙の彼方で繰り広げられる星の誕生の現場をスーパーコンピューターの中に再現し,可視化することではじめて,複雑な電磁流体現象の物理を把握することができた。
審査講評
X線観測衛星「あすか」等が提供する観測結果がもたらした常識を覆す星形成のメカニズムを,計算機シミュレーションにより説明し,その複雑な現象をきわめてわかりやすく可視化し,超日常的な対象の解析に対する可視化の有効性を再確認させてくれた。サイエンスロマンの香りがする作品である。