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新しい魔球ジャイロボールの投球動作と
ボールが作る流れの数値解析
姫野龍太郎(ひめの・りゅうたろう)
  理化学研究所 情報環境室
望月義幸(もちづき・よしゆき)
  松下電器産業 マルチメディア開発センター
横山太一(よこやま・たいち)
  アイ・キューブ
高野光太郎(たかの・こういちろう)
  アイ・キューブ
松本秀樹(まつもと・ひでき)
  NEC情報システムズ
土肥 俊(どい・しゅん)
  日本電気 情報メディア研究所
図1   上肢の3次元数理モデル
図2 最適化後の投球フォーム
図3   直球とジャイロボールの回転の違い

(1)直 球

(2)ジャイロボール
 
図4   飛ぶときに正面となる面

(1)ケース1

(2)ケース2
 
図5   流れの様子

(1)ケース1

(1)ケース2
図6   フォークボールでの流れの様子
図7   直球・フォークボール・ジャイロボールの軌道の比較
 
1.はじめに
 野球では投手の役割が非常に大きく,その出来不出来によって勝敗が大きく左右される。投手の球の速度が上げられたり,これまでにない変化球が投げられれば,投手にとって非常に有利になる。筆者らはこれまで実際に投手の投球動作を計測し,腕の骨格筋肉モデルを使って投球動作を最適化する動作シミュレーションを行ってきた。その結果,二重回旋式投球の方が無理なく,より速い球を投げられることが分かった。今回,CGを使って,この最適投球動作を可視化するとともに,この投球フォームから投げられたボールの流体力学的な数値解析を行い,この球の特性を明らかにすることを試みた。
2.投球動作の最適化
 投球動作ではボールを投げる側の上肢(肩から手先まで)の動きが最も重要である。このことから,身体の運動方程式を立てるのに,上肢を対象としたモデルを作成した。体全体の動きは肩関節と股関節の動きで与えることとした。このモデルには図1に示すように7個の回転角が変数として入っている。図ではボールを手から離す前の状態を示している。
 最適化を行う初期動作には,プロ野球投手の投球動作を3次元計測して使った。なお,この計測にはDLT(Direct Linear Transformation)法を使った。最適化では,1)肉体の有する条件範囲内の動き,2)ボール速度,3)無駄の無い動き,4)滑らかな動きの4つを重視して目的関数を設定した。
 元の投球動作が,肘や手首の曲げ伸ばしと,急激な減速を使った二重振り子式投球であったのに対して,最適化後は,背骨を中心軸とした回転と上腕の回旋運動を利用した二重回旋式投球となった。これにより,関節に負担が小さくでき,10%ほど速い球を投げられることが分かった。
3.投球動作の可視化
 ポリゴンが34,676のサーフェイスモデルを使った。最適化計算では手だけの運動を扱っているが,体全体の動きとの関連も重要であるため,他の部分の動きも最適化計算の結果と時刻同期させて画像化した。3次元CGアニメーションにはSoftImage(Avid社)を使った。
 図2はアニメーションから抜き出した一連の画像である。このような動きのあるCG映像を見ることで,改良した投球動作を容易に理解できるようになった。図では指までCG化していないので分かりにくいが,手首を内側から外側に向かって回転しているため,投げるときに指がボールの上部を右に擦ることになる。その結果,図3に示すように,従来の直球と異なり,アメリカン・フットボールでのパスのように,ボールの回転軸が進行方向を向き,螺旋状に進むことが予想できる。このような回転の球は,スポーツ・トレーナーの手塚一志氏によってジャイロボールと名付けられている。
4. ボールの流体解析
 ジャイロボールの空気力学的な特性は,これまでに全く研究されたことがない。そこで,回転するボール周りの流れを数値シミュレーションすることによって,このボ−ルの空力特性を求めることにした。
4-1.計算方法と差分格子
 ボールの速度は投球フォームの最適化を行って得た43m/sとし,ジャイロ回転の回転数は投球動作の手の動く速度から毎秒30回転と推定した。流体解析用のプログラムは筆者らが自作したものを用いた。ボールの縫い目部分は実際の野球ボールを計測して忠実に再現している。計算点数は169 x 92 x 101の157万点である。計算時間はNEC製SX5Sを用い,1ケース10〜20時間であった。可視化にはリアルタイム可視化システムRVSLIB(NEC製)を使用した。図3から分かるようにジャイロボールでは常に同じ面を飛ぶ方向に向けている。このため,どの面を正面に向けるかで,流れが変化することが予想される。そこで,図4に示す二つの場合で計算を行った。
4-2. 計算結果

 図5にケース1と2の結果を可視化して示している。ボール表面上の色は圧力である。赤い部分は圧力の高い領域,青は低い領域である。後流の大きさからも容易に予想されるように,この2ケースでは空気抵抗係数CDは大きく違い,ケース1では0.061,2では0.292と約5倍違う。VTRからはケース2では後流が時間とともに上下に大きく振られるようすも分かる。ここで見られる後流が大きい,時間とともに後流の向きが大きく変わるという特徴は,図6のフォークボールでも観察された。
 投球最適化した場合の球速の43m/s(154km/h)でジャイロボール2種,フォークボール,直球の4種類の球を水平に投げた場合の軌道を計算して比較してみた(図7)。図から明らかなようにジャイロボールはフォークボールと類似した落ちる変化球であることが分かる。

5. 結論

 これまで最適化計算された投球フォームが良いことは分かっても,実際にそのフォームを学習するのは困難であった。今回作成した最適化投球フォームの映像を見ると,容易にこのフォームのまねができ,トレーニングに非常に有効であることが分かった。また,この時投げられた球はジャイロボールと呼ばれる回転軸が進行方向と一致する球になる。このボールの流れ解析から,正面にある縫い目パターンによって流れに大きな差が生じ,CDが5倍も変化することが分かった。フォークボールの解析も行い比較すると,流体力学的には両者は同じ性質を持ち,落ちる変化球であることが分かった。また,ジャイロボールは握る位置を変えることで落差が容易にコントロール可能だとも予想される。

審査講評
スポーツ科学における可視化技術の可能性を証明した作品である。骨格筋肉モデルを用いた投球フォームの最適化,ボール回転の流体力学的特性の解析,大型スクリーンによる没入的なバッター疑似体験という,個々の要素だけでも受賞級の仕事を巧みに組み合わせた総合力が評価された。