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◆優秀賞[日経サイエンス賞]◆
◆特別賞[ヤング・ビジニア賞]◆
複雑液体のイオン構造と電子状態の可視化
仙田康浩(せんだ・やすひろ)
  広島大学生物圏科学研究科
環境計画科学専攻博士課程3年
槌本裕二(つちもと・ゆうじ)
  広島大学理学部物理学科3年
下條冬樹(しもじょう・ふゆき)
  広島大学総合科学部助手
星野公三(ほしの・こうぞう)
  広島大学総合科学部教授
中村 純(なかむら・あつし)
  広島大学情報教育研究センター教授
   
   
図1  
液体 K0.3Pb0.2合金の局所的なイオン構造と価電子分布。
K,Pb原子を青,緑の球で表わし,Pb原子同士が近づいた時に2原子間に ポンド線を描いた。緑,赤の等密度面は価電子の増加を意味する。
 
1.はじめに
 液体金属は乱れたイオン配列と価電子状態が強く相関した系であり,「複雑液体」として知られている。近年,理論的アプローチとして第一原理分子動力学法が液体金属に適用され,実験では知ることのできない微視的なイオン構造や,局所的な電子状態に関する知見を得ることが可能となってきた。液体金属のイオン配列は時間的,空間的に乱れているので,単に平均値をグラフ化したものからその本質をとらえることは困難であった。このような系のダイナミクスを理解するために,第一原理分子動力学法によって得られたイオン配置の時系列データをアニメーションにより可視化した。
2.学生用端末を利用した分散レンダリング処理
 レイトレーシングによる高品位画像の作成には,1コマに数分の時間がかかり,合計数千コマにおよぶ時系列アニメーションの作成には膨大な時間を要する。このレンダリング作業を分散処理することによって,アニメーション作成における作業の効率化,高速化を図った。広島大学情報教育研究センターには約100台の学生用端末があり,常時使用可能な状態にある。我々はこの端末にレンダリングに必要な元データを配送するための分散ソフトウェア,SHEEPPOVを開発した。
3.液体アルカリ-鉛合金の可視化
 アルカリ金属と鉛 (Pb) の合金は化合物を形成することが知られており,NaPb, KPb結晶化合物はPb原子からなる四面体構造(Zintl イオン)を含んだ構造を持つ。Zintlイオンの形成はアルカリ金属原子から Pb 原子への価電子の移動と密接に関連していると考えられている。近年の観測結果から,高温の液体状態でも Zintl イオンが生き残っているという予言がなされた。この指摘を理論的に確かめるために,第一原理分子動力学法によって得られた結果をアニメーション化した。
 我々の計算結果とその可視化により,アルカリ金属の濃度の高い液体合金中に,安定に Zintl イオン が存在していることが初めて明らかになった。安定した Zintl イオン の形成は,アルカリ金属原子から Pb 原子への価電子移動と密接に関連している。そのことを確認するために価電子移動量の分布を調べた(図)。図より,Zintl イオンの周りの価電子が増え,逆にアルカリ金属原子の周りの価電子は減少していることがわかる。このことから,アルカリ金属原子から Zintl イオン へ価電子が移動し,価電子を貰い受けた Zintl イオン が安定に存在していることが確認された。
審査講評
対象としたシミュレーションは,共著者による成果であると,公開シンポジウムで説明があった。学部3年生のレベルでこれだけ透徹した可視化を,しかも大学の教育用計算機群を有効利用して,自主開発した分散レンダリング処理プログラムを走らせ実現した業績を,最大限に評価してのダブル受賞となった。受賞者をはじめ,若手の今後の活躍がますます楽しみになった。