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◆優秀賞[日経サイエンス賞]◆
火災旋風をモデルとした数値計算とその可視化
小紫誠子(こむらさき・さとこ)
  お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科 複合領域科学専攻 河村研究室 博士後期課程1年
河村哲也(かわむら・てつや)
  お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科 複合領域科学専攻 教授
図1   温度 上(a):火災旋風形成,下(b):旋風崩壊
図1
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図2   旋風崩壊直後の様子 上(a):渦度,下(b):圧力
図2
 火災旋風とは,火災が原因となって発生する強い回転流のことである。実際,関東大震災の直後に二次的に起きた広域火災から火災旋風が発生し,避難場所の空き地を襲い多数の犠牲者を出した(被服廠跡の惨事)。このような広域火災による火災旋風のメカニズムを調べるために,被服廠跡の惨事の状況に合わせた逆L字型の熱源を火災として用い,火災旋風発生の重要な要因であるコリオリ力を考慮して計算を行った。そして温度や圧力等の物理量を可視化することにより,現象を直観的にとらえ易く表現した。さらに非定常現象であるため,アニメーションも併用して現象の解明を進めた。
 流体運動の数値シミュレーションでは,速度などの物理量が満たすべき支配方程式を,与えられた境界条件や初期条件のもとで数値的に解く。結果として得られる数値データを視覚的にとらえ易く表現するためCGを用いて可視化する。可視化においては,(株)計算流体力学研究所の流体専用可視化ソフトClef3dvrを用いた。
 図1は,温度を簡易ボリュームレンダリング法(等値面を何枚か重ねて描く方法)により表示したものである。図1の(a)は火災旋風が形成されたときの様子,(b)はその後しばらくしてこの旋風自身が崩壊する様子を示している。旋風形成後それが崩壊するという現象は物理的に大変興味深い現象である。この崩壊現象はアニメーションによりよく表現されるが,ここでは静止画として図2に旋風崩壊直後の様子を示す。図2の(a)は,渦度の絶対値の簡易ボリュームレンダリングを用いて示した図に,300Kの等温面を赤で追加した図である。(b)は,地面付近の圧力分布と低圧部分の等値面を表示している。それぞれの図は,旋風の崩壊開始直後の様子であり,強い渦が地面付近に存在しその内部で圧力が高くなっていることを示している。地面付近でのこのような現象は,崩壊前には見られなかったものである。
 これらの現象については今後さらに詳しく解明する必要があるが,上記のように複数の物理量を可視化することにより,これまであまり知られていなかった火災旋風のメカニズムがある程度明らかになり,さらに旋風の崩壊という新たな現象をとらえることができたと言える。
審査講評
実スケールでの実験に代わる数値シミュレーションの役割の大きさが実感できる。既知の可視化技法であっても,ツボを押さえた利用によって,印象的な作品に仕上げられることを示す好例である。本作品に限らないが,数値シミュレーションによって新たに見つかった現象を裏付ける物理的検証を実施するための追サポートの必要性を強く感じる。