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「サーフィスパスレンダリング法を用いた煙突噴流の可視化」
葛生和人(くずう・かずと)
 (株) 計算流体力学研究所 研究部 研究員
図1 煙突から流出する噴煙
図1
図2 流れに沿って移動する検査体積
図2
図3煙突噴流の可視化(噴流流出速度:2.0m/s)
 図3
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図4煙突噴流の可視化(渦度=60.0 /sの等値面)
 図4
図5煙突噴流の可視化
図5(a)(a)噴流速度6.0m/s
(正面および側面図)
図5(b)(b)噴流速度0.2m/s
(正面および側面図)
1.研究の背景
 数年前までは,大学の研究室などで,スーパーコンピューターを使ってはじめて実現していた3次元流体の数値シミュレーション,このような大規模計算も,今日では,コンピューターハードウェア技術の進歩によりパソコンレベルで実現可能なものとなった。今後,数値流体力学の世界は,従来の研究レベルの段階から一歩進んで,実用レベルの段階に移り,流体シミュレーションもさまざまな分野で評価,検討される機会が増えていくであろう。
 そのような状況を考えたとき問題となるのは,シミュレーション結果を,いかにして流体の専門分野でない人に理解してもらうかである。数値データの羅列でしかない計算結果を視覚化することを,流体力学の世界では「流れの可視化」と呼んでいるが,この世界でよく使われる圧力,渦度などは,一般の人にはなかなか理解しにくいものがある。我々が通常持っている流体のイメージは,日常生活の中で目に触れる流体である。たとえば,図1に示したような煙突から流出する噴煙,これは,我々が経験的に知っている流体の運動であるが,このような可視化イメージを,実際の流体の数値シミュレーションで再現することは,より広い分野の人たちに流体の運動を理解してもらうという点で重要な意味を持つものとなる。
 以上のような観点から,本研究は,通常の流体のイメージを,いかにして数値シミュレーションの結果で再現すべきかに焦点を置いた。
2.サーフィスパスレンダリング法
 日常で我々が煙などを通じて間接的に捉えている流体運動のイメージは,単なる煙の粒子の動きのみではなく,その粒子の疎密感,光の散乱や影により生ずる奥行き感などの総体として視覚化されたものである。つまり,流体の運動と共に移動する微小な検査体積の変形や膨張の効果を,我々は無意識のうちに捉えているのである。ここで紹介するサーフィスパスレンダリング法は,このような流体運動認知のメカニズムをより厳密に捉えることにより,パーティクルパス(粒子追跡)法などに代表される従来の可視化手法の不足点を補い,リアルな流れの可視化を実現したものである。
 具体的には,パーティクルパス法における追跡粒子の代わりに追跡微小面要素を設定し,図2で示したような流れに伴う検査体積の移動と変形の効果を,微小面要素の移動と変形に還元させる。ここで,光の散乱率と検査体積の関係は,微小面要素の光の透過率と変形率に対応させ,さらに,面要素に対する照光計算を行うことにより,粒子の疎密感や3次元的な奥行き感の効果も持たせることができる。
3.シミュレーション結果
 ここで示すシミュレーション結果は,煙突から流出する噴煙がどのように拡散していくかを示したものである。煙突噴流問題は,物理的に興味深い現象を伴うと同時に噴煙の拡散など環境問題にも関わるものとしても重要なものである。なお,流体の数値計算に関しては,3次精度の風上差分を適用した直接数値シミュレーション法を用い,流体の運動を支配する3次元非定常ナビエ・ストークス方程式を解いている。
 図3は,左手前より1.0m/sの風速で流れる空気の中に置かれた煙突周りの流れである。煙突口からは2.0m/sの速度で噴流が流出している。煙突口より噴煙状に見える部分が,サーフィスパスレンダリング法を用いた可視化表現であるが,この方法により,先ず噴流の3次元的構造と拡散状況を把握することができる。特に,ここで見られる1対の縦渦は,bifurcationと呼ばれ,主流と噴流の干渉によって起こる特徴的な現象である。この現象は,実際の噴煙(図1)でも確認することができる。また,ここでは他の可視化イメージ(等圧線など)も同時に重ねあわせているが,これらの表現は,流れ場全体が大きな乱流構造に発達していることを示している。図4は,同じ流れ場の状況を渦度の絶対値の等値面表示を使って表現したものである。渦度の等値面表示は,流れ場全体の乱れの状況を一度に把握するためには非常に有効な可視化手法であり,実際,本計算結果においても,煙突後方で発達した乱流がよく捉えられている。しかし,この方法では,図3で示したような噴煙の構造を特定して把握することは困難である。
 煙突口から流出する噴流はその流出速度によって,下流側の流れ場の様子をかなり変えてしまう。図5(a)(b)は,そのような噴流流出速度による流れ場の変化を見たものである。図5(a)の噴流速度大の場合を見ると,下流側の流れに大きな乱れの生じているのがわかる。これは,噴流と主流の衝突によって生ずる乱れが,下流側で大きく発達している状況を示している。さらに,動画表現を用いればcoherent motionと呼ばれる乱流独特の流体塊運動も観察することができる。このように,サーフィスパスレンダリング表示は,発達した乱流の構造が噴流拡散の効果を促進している様子も再現している。
 一方,図5(b)では,煙突口付近での噴流の巻込み現象が観察できる。flaggingと呼ばれるこの現象は,煙突の下流側に発生するカルマン渦の中心に向かって,噴流が引き込まれることによって起こる現象で,煙突口付近のすすによる汚染など,煙突設計上の重要な問題も関係してくる。
 以上のように,サーフィスパスレンダリング法を用いた流れの可視化は,3次元的な流れの構造や噴流拡散の状況をよりわかりやすく表現できることが確認された。
審査講評
提案された方法は,適用例の煙突噴流に限らず,3次元の流れ場の可視化を必要とする,さまざまな科学技術分野に利用可能なポテンシャルをもつことが特に評価された。特に,拡散のような大域的特徴だけでなく,局所的な流れ場の構造まで,静止画上でも伝えられる表現力と,視点変更による対象観察の対話性を実現する画像生成効率の高さを両立している点は特筆できる。