《審査講評》
(敬称略、五十音順)
●審査委員長/太田次郎(お茶の水女子大学名誉教授)
今回は非常にバラエティーに富んでおり,質も向上した。Computer Visualizationでは, 取り組みやすい部門に偏りがちだが,今回はいろいろな部門が出ていたのが特徴的だった。結果の通り,特にビデオの出来が良く,ハードコピーの出来との差はさらに開いている。特に最優秀賞の作品の場合は,音の特性も入っていて大変よかった。
今回は大学,研究所の活躍が目を引いたが,メーカーサイドも遊びを加味して良いものを出してほしい。全体としては映像,色の扱いも大変良く,触覚を扱った作品などのように着眼点は良いが入賞には至らないものがあった。コンピューターでのvisualizeを限定しないで新しい分野を提示していくことがこのコンクールのよさだと思うので,もう一歩新しいところに挑戦してほしい。画像のきれいさばかりにこだわらず,新しい分野で説得力のある作品を期待する。
●審査委員/大村皓一(宝塚造形芸術大学教授)
全体的にレベルが上がったが,本当の意味でのNew challengeが少ない。以前は,Visualizationや計算のソフトを自分で作っていたのでそれなりの工夫が画に反映していたが,今回はソフトが固まってきたために,全体的に見せ方が標準的で演出が足りない。カットも色の配色も見せ方が悪い。
Visualizationなのだから見ただけで一応は完成していなければならないのに,解説を見ないとわからないものが多く,映像として独立しているものが少ない中で,
最優秀賞の作品は分かりやすくて面白かった。次回からは演出に力を入れてできる限り映像表現で独立するようにしてもらいたい。文章表現はよく勉強されているが色彩表現が乏しいように感じるので,美術館へ行ったり映画を観たりして感激したことを積極的に作品に反映させてほしい。
●審査委員/小林敏雄(東京大学教授)
今回ビデオ作品のレベルが上がったのでハードコピー作品が貧弱に感じられた。それは出し方の問題でハードコピーの場合は一点だけ良いものを出して印象に残るように工夫してほしい。また今回はcomputerの作品に対する関わり方が多様化してきていることが特徴的であった。最優秀賞は学問的には佳作だったが音の効果で説得力があり高い評価を得た。佳作の「ジェットエンジン内部流の非定常解析」はシュミレーションが難しく,優秀賞の「半導体デバイスのイオン打ち込み分子シミュレーション」は計算自体が非常に難しい。
今後出てきて欲しいのは建築素材の触覚の分野で,新しくて衝撃のある映像作品を期待する。今回設けられたNew Frontier賞はコンテストの活性化に繋がると思う。これからはビデオに対抗して動画では表現できないような強い印象を与える静止画像を出してほしい。「建築仕上げ材料の触覚的特性の可視化」は発想がとても良かったが視覚化の技術が悪く,見るものの感性に繋がらなかったのが残念であった。
●審査委員/戸川隼人(日本大学教授)
Visualizationのソフトは8割くらいはAVSだったようであまり差が開かなかった。3,4年前は表現の工夫が表彰の種だったが,今は見栄えの良いソフトが出てきて機械も安くなったので,誰でも質の高い映像を作れてしまう。独自のソフトでAVS以上のクォリティを出すのは,むずかしい。
入選を逃したものでは「衛生陶器水流れの数値シミュレーション」があったが,この作品のように実用的で誰が見ても面白いと思えるものが増えると良いと思う。計算内容はとてもよくなり,スーパーコンピューターを使って難しいことをしているが,それも汎用の計算ソフトを使っているので良いソフトを使えば迫力のある計算ができる時代になったことを示している。そういう意味では例えばNew
Frontier賞の作品の名にふさわしい先取りするような作品は今年は少なかった。
●審査委員/中嶋正之(東京工業大学教授)
回を重ねる毎にこのコンテストが認識されて,全体の意識が高まっているように感じた。全体のレベルが上がり,非常に幅広い内容が多いことが特徴的だった。選には洩れたが良い作品も多く,キュウリの三次元の作品「3次元内部構造顕微鏡による生体資料の内部構造の可視化」などは発想が面白かった。
最優秀賞の作品は可視化と可聴化を非常に効果的に使っていて,説得力があり新しいVisualizationの方向を示している。他にも新しい方向性や分野を提示したものとして佳作の2作品「ハイゼンベルクの谷と重元素合成」と「レーザーによる超微細加工のシミュレション」などを評価したい。静止部門ではプロの方からの応募があったが,これからはプロの方が実際に業務で使っているものをそのまま作品として出してほしい。New
Frontier賞は,非常にタイムリーでCG,三次元投影画像によりrealityが高かった。全体的にvisual化ばかりに力点を置いているのが目だったが,ナレーションや効果音などによるプレゼンテーションの技術を磨いてほしい。
●審査委員/藤代一成(お茶の水女子大学助教授)
最優秀作品が取り組んだ可聴化,またNew Frontier賞受賞作品で達成されていたバーチャルリアリティを用いた現実世界と仮想世界とのリアルタイムな融合は,ともに実応用において可視化がすでに大きな成果をあげていることを如実に示したもので,技術的にもこれからの可視化の方向性を十分に予見させる内容であったと思う。また,佳作「ハイゼンベルクの谷と重元素合成」は,元素の抽象的な世界を人間が理解しやすいような地形学的メタファーに置き換えていた点が光っていた。残念ながら入賞は果たせなかったが,ガラス繊維の紡績巻き取りを扱った作品があり,CAD/CAMと可視化とをダイレクトにリンクさせた点で新鮮な印象をもった。
作品を完成させるにあたって,着想の豊かさは何よりも大事であるが,そこに盛り込むテーマをどのように見せれば,言いたいことが効果的に伝えられるかを事前に十分検討することも欠かせないと思う。作品は公開後一人歩きすることになる。独立して個々のメッセージを正しく伝え続けていくためのパワーは,作品としての自己完結性からくるものと思うので,今後もこうした観点からの追求をぜひ心がけてほしい。
●審査委員/森 啓(明星大学教授)
今回は作品の主題はバラエティーに豊み質的にも優れたものが多かったと思う。最優秀賞の作品は興味深く,示唆にとんでいた。可視化とならんで可聴化の試みが,波と渦の変化に応じて作られた音と同時に,グラフ化されていて非常に行き届いた作り方だった。
最優秀作品の次に興味深かったのは「建築仕上げ材料の触覚的特性の可視化」で,着想が優れていた。ただ,ハードコピーが良くなかったためにテーマを選択した真意が伝わらなかったことが残念だ。テクスチャーの違うものをどのように表現していくかという画期的な問題提起であったと思う。触覚的な部分と目で見たときの違いを,コンピューターによってどう再現していくかという研究分野を深めていってほしい。ハードコピーによる作品は全体的にプリンターの性能と印刷用紙の適性が良くないために随分損をしている。テーマの選択はあまり専門分野に偏らず,面白さと遊びを取り入れてほしいと希望している。
●審査委員/松尾義之(日経サイエンス編集部次長)
第3回を迎えてレベルが上がり,バラエティーに富んだテーマ,切り口が出てきて中身が非常に広がってきた。新しい可能性や試みが見られたのはvisual化するためのツールが安くなり環境が整ってきたことが影響しているのではないか。最優秀賞は音を効果的に使っていて面白かった。聴覚が視覚効果を高めるという説明があり,どうすれば人に訴えたかという見方が入っていて文句無しに面白かった。表現力の上手さという点では優秀賞の流体研のものは基礎が押さえられていた。
今回からのNew Frontier賞の候補はいくつかあったがVisuali- zationを狭く捉えないでいろいろな可能性,試みをして応募して欲しいと思った。学生はいろいろな意味で能力的にも限られているが,若い発想をそのまま取り入れて新しい方向に挑戦してほしい。
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