優秀賞「JIP賞」
「移動発熱体によって生じる流れ」
| 土屋敏明(つちや・としあき) |
(株)計算流体力学研究所
研究部研究員 |
| 桑原邦郎(くわはら・くにお) |
文部省宇宙科学研究所
システム研究系宇宙環境工学部門助教授 |
(状況):物体が移動して既に十分な時間が経過している。
現在,容器の左側に見える赤色の尾を引いている塊の中に物体があり,
物体は右下の角付近を通り,容器上壁をかすめて,左下の角の方向に下
降中である。(a)(b)は同じ時間ステップの計算結果である。
図1(a)温度のボリュームレンダリング的可視化:
物体の後方に比較的温度の高い赤い部分が尾を引くように発生し,
有る程度の長さになると分離する。容器内は,こうしてできた比較
的暖かい流体の塊が増えていくことが観察される。
図1(b)容器内に生じる渦度の強い部分の等値面:
物体から発生する渦(赤い尾の部分)と,過去に放出された減衰中
の渦(右下に溜まっている青色の塊)と,さらに壁面との相互作用
を起こして,複雑な流動が生じていることがうかがえる。
図2 可視化システムの構成
我々の普段目にすることのできる流体現象の多くは運動する物体とそれを取り巻く流体の相互作用によって生み出される渦の複雑な運動であることが多い。通常,こうした現象の観察は物体を流れの中に固定して行われる。しかし,現実的には,水槽の中の魚,歩く人間,部屋を飛び回る小鳥,ミルクをかき混ぜるスプーンなど物体が動き回ることによって流れは生じており,そうした流れ場は興味深く感じらる。本来,自然現象を理解するためには,その現象そのものをじっくり観察すれば良いが,我々を取り巻く流体運動のほとんどは時間的に変動する非定常的で,複雑な運動であり,さらに残念ながら,自然の流体現象は人間の生まれ備えた感覚器ではなかなか捉えがたいものである。こうした流体運動の数値計算を行い,データを可視化(ビジュアリゼーション)し,様々な流れのパターンを観察することで自然現象に対するより深い洞察力が培われるものと考えられる。
そこで,本研究では,雰囲気温度より高い温度に保たれた等温発熱物体を三次元的な軌道で移動させることによって密閉容器内に生じる流れのシミュレーションを行った。移動する物体後方に生じる流れと,物体と周囲の温度差による熱対流との相互作用が興味深い問題である。このとき,物体が三次元的に移動し,発生する流れも三次元的になるため,可視化による流れ場全体の把握が非常に重要となる。ここでは,物体から発生する渦と温度場の構造が関心事であるため,温度場と渦度場の時間発展のビデオアニメーションとして詳細に可視化した。
温度場の構造の可視化にはボリュームレンダリングによる表現が有効であるが,ケーススタディを行う場合には可視化のための計算時間が非常に長くなり,必ずしも現実的ではない。そこで,温度の最大値から最小値の範囲を10段階に分けて透過率を調整し,同時に等値面を表示するという手法により,計算時間をはるかに短縮しつつボリュームレンダリング的な可視化を行った[図1(a)]。また,物体後方の流れについては,流体が局所的に強く動かされる部分,つまり,渦度の強い部分の形状とその温度分布特性を観察するために,容器内の渦度の絶対値の最大値の90%の等値面に温度のシェーディング処理をして可視化を行った。赤い部分はより高温の部分である。[図1(b)]。
今回,使用した機材はパーソナルな環境での使用を前提としたもので構成されている(図2)。数値計算や可視化においては,試行錯誤を気軽に多数繰り返し,かつ,一連の作業を素早く処理できる環境が重要である。システムの基本構成は,ネットワーク接続された高速計算用のパソコン(OS:WindowsNT)群である。数値計算で出力したデータファイルを可視化プログラムClef3Dvr*を使用してアニメーション用のグラフィックデータとして,ネットワーク接続されているデジタルビデオ編集機に転送する。そこでアニメーションファイルの作成,編集を行い,各種ビデオ出力を通して録画する。こうしたシステムの使用により今後も様々な流体現象の解明が進むものと考えられる。
*Clef3Dvrは,IPA(情報処理振興事業協会)の創造的ソフトウェア育成事業のプロジェクトとして開発されたものである。
◆審査講評◆
蓄積された豊富なノウハウをベースとして,対話的な3次元流体解析用の可視化環境を,ハード,ソフトともに自作を目指している点が,他にはない強い個性となっている。今後,研究者,技術者の日常的な活動に大きな影響を与えていくと考えられる,PCを中心としたパーソナルな可視化の方向性を明確に打ち出している。
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