優秀賞
『密閉容器内の自然対流のシミュレーション』
●土屋敏明(つちや・としあき)
株式会社計算流体力学研究所 研究部 研究員
時間10及び35における温度280Kの温度等価面の比較
(1)レイリー数1.08×(10の4乗)

時間10 → 時間35
(2) レイリー数1.08×(10の5乗)

時間10 → 時間35
(3) レイリー数1.08×(10の6乗)

時間10 → 時間35
本研究では,熱対流現象の基本的なメカニズムを探る目的で,熱対流の形成過程に注目し,高レイリー数において上下壁に温度差のある三次元密閉容器内の自然対流についてシミュレーションを行った。自然対流とは,加熱された流体が浮力によって誘起する流れのことである。密閉容器内の自然対流においては,レイリー数という無次元数が熱対流の特徴をあらわす重要なパラメータである。このレイリー数の増加と共に,容器内では対流が発生し,発生した対流は時間的に変化の無い定常状態から,時間的に変動を繰り返す非定常状態へと対流のモードが遷移して行く。
こうした現象解明の手段としては,CFD(Computational Fluid Dynamics:計算流体力学)が有効である。それは,CFDは実験に比べて境界条件の理想化が容易であり,流れ場が不安定で非定常な状態となる領域においても詳細なデータのサンプリングが可能なためである。流れ場が複雑で本質的に3次元構造を持つ場合,得られたデータの3次元的な可視化(visualization)を時系列に沿ったアニメーションにすることが,流れ場全体の因果関係を把握するために特に重要な役割を果たす。
基礎方程式は,質量保存則を表す連続の式,運動量保存則を表すNavier-Stokes方程式,エネルギー保存則を表すエネルギー式である。これらの基礎方程式を多方向3次精度風上差分法によって離散化し,時間0から突然に容器底面を加熱した後の非定常数値計算を行った。容器は辺長比4:4:1の偏平な直方体とし,プラントル数は1.0,レイリー数は(1)1.7×105,(2)1.7×106,(3)1.7×107のオーダーの異なる3ケースについて計算を行った。温度の境界条件としては,底面は293Kの等温加熱壁,天井面は273Kの等温冷却壁,側壁は断熱壁,容器内初期温度は273Kとした。速度の境界条件は滑りなし,圧力の境界条件はノイマン条件とした。計算格子は,直交等間隔格子であり,128×128×32で合計52万点程度を使用した。
前述のレイリー数による3ケースの計算結果に対して,容器内の温度場の3次元構造を温度の等値面(280K)で詳細に可視化し,初期状態からの時間発展をビデオアニメーションとした(図(1)(2)(3)参照)。時間発展の傾向をみると,時間10では,各ケースにおいて過渡的な温度場の構造が出現し,その後十分に時間の経過した後の時間35では,より大きな構造をもつ温度場が形成されていることがわかる。詳しく見ると過渡的な時間10では,(1)(2)では温度場は比較的なだらかな曲面で構成され,容器内の温度場は規則正しく対称的な構造が発生している。一方,レイリー数が大きい(3)では,底面から多数の小さなマッシュルーム型の突起状の構造(サーマルプリューム)が,不規則な配置で発生し,(1)(2)とは明らかに異なる形成過程となっていることがわかる。十分に時間の経過した時間35では,(1)は対称的な温度場構造をもつが,(2)では対称性は崩れている。(3)は,初期段階から不規則な温度場となっている。レイリー数の増加とともに対称性は崩れ,温度場の構造がより細分化され,同時に複雑化していく様子がわかる。
この3次元的に可視化されたアニメーションにおいては,実験では把握し難い温度場の空間的な構造や時間的変動が詳細に捉えられている。極めて単純なモデルからこの計算及び可視化手法によって得られる情報は,産業機器の熱的問題(熱伝達率の促進・抑制・コントロール),大気や海洋の流れのメカニズム等について重要な物理的知見を与えると考えられる。今後,本手法によって様々な現象が捉えられて行くことが期待される。
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