図2A
図3| 美しい流れの画像 私たちは木々の葉が揺れたり,身体に冷たい風を感じたりしてはじめて「ああ北風が吹いているなあ」と知る。このように空気の流れは直接目に見ることができないので,流れの様子を知るにはそれを検知する道具が必要であり,可視化(ビジュアリゼーション)はそのための大切な手段である。ここに流れとビジュアリゼーションの深い関わり合いがある。ふだん見ることができないせいか,「流れ」のビジュアリゼーションには美しいと感じる画像が多い。単に牛乳に墨を入れたりしただけ(図1に示す)で,美しい模様を眺めることができる。最近では数値シミュレーションによる流れの研究(Computational Fluid Dynamics,略してCFD)から多くの画像が生まれている。コンピュータービジュアリゼーションコンテストに提出される画像にもCFDの美しい画像が多い。図2にCFDの画像例を示す。 このように流体現象から生まれる画像は美的なセンスからだけでも十分楽しめるものも多く,流体現象の画像を集めた「Atlas of Visualization」という書籍まで出版されている。 画像をどのように使う? 話を研究分野での利用に限ると,コンピューターグラフィックスが脚光を浴びたのは1980年半ばである。カラーの画像を使った学会発表や論文が出始めた。美しい画像は魅力的であり,以降,より美しい画像を出すことに力が注がれた。結果,「カラー画像」による派手な論文ばかりが注目されるようになり,「CFDはColored FluidDynamicsだ」などと言われたこともあった。JR「緑の窓口」システムの生みの親と言われる旧東大宇航研(現:宇宙研)の穂坂衡先生は研究所ニュースに面白い記事を書かれている。タイトルは「コンピュータ・グラフィックスおよびリアルタイム計算機システムの研究」。昭和39年の記事である。図3にその記事からグラフィックス表示の画面を示す。単にペンで画面からデータを拾っている姿だが,いわばリアルタイムシステムの幕開けといえる。紙面の制約で詳細は書けないが,穂坂先生は計算機の利用に関して「人間の創造性は科学や工学においては最も貴重な資源であり,人間と機械の能力を結合させ,両者の和以上のものが得られると期待している」という。 研究や開発における画像は単に美しければよいわけではない。そこから計 算機だけでは,また人間だけでは生み出すことのできない知識を引き出すことに大きな意味がある。ビジュアリゼーションの普及が進むにつれて,次第にソフトウェア開発者も利用者もそのことに気づきはじめた。 筆者は昔,可視化ソフトウェアの性質をリサーチグラフィックスとプレゼンテーショングラフィックスという2つの用語で分類した。プレゼンテーションの画像には多少作るのに時間がかかっても多くのことをわかりやすく表示できるものが適しているが,リサーチのためには機動的で,インタラクティブな作業ができるものが向いている。「何のために」ビジュアリゼーションを利用するのかを意識していないと,利用すべきソフトウェアの選択も,出力すべき画像の選択もできはしない。 ビジュアリゼーションの目指す道 計算機の性能向上は急激である。先端計算機では,その性能は10年で約1000倍となっている。最初の実用スーパーコンピューターと呼ばれるCRAY-1は1970年代後半に登場したが,その実効速度は今のペンティアムIIパソコン程度,もしくはそれ以下に過ぎない。 このような計算機環境の変化の中,ビジュアリゼーションにも変化が生じている。ビジュアリゼーションが身近になったという大きな変化に加えて,先端的なビジュアリゼーションではVR(仮想現実)や立体視などの利用が叫ばれている。これらは確かに将来のビジュアリゼーションに大きな変 革をもたらすだろう。ただ,単なる派手さのために利用したら意味がない。何をどう表示したら既存の可視化でわからなかったことがわかるようになるのか,もう一度見つめなおして新しい道具を使っていきたいものである。 既存の可視化手法についての見直しも大切である。今,普及しているソフトウェアの基本概念は市販,自作を問わず1980年代半ば,はじめてカラーの画像が取り入れられた時期に構築されたものである。アニメーションを考え てみよう。一般的には予め決めた画像をたくさんのフレームに落とし,それをムービーにする。ムービーを見ながら「他の関数分布を見たい」とか「視点を変えて見せてよ」といっても,そんなことはできない。作り直すしかないのである。その昔「インタラクティブビデオ」という言葉があった(今でも?)。観光案内のビデオで,どこでも見たい方向を見ることができるといった類のものである。例えていえばこのような機能が研究のためには要求される。われわれは画像フレームを作成してビデオを作るという考え方の枠にとらわれていないだろうか。 研究対象が変化し,利用できる計算機環境が変化すれば,当然,画像表示のためのあるべきソフトウェアの姿も変わるべきである。第1世代の可視化ソフトウェアは確かにパソコンレベルまで落ち,普及もした。いまや10年先,20年先を見た次世代の可視化ソフトウェアの概念を考えるべきときに来ている気がする。 美しい故に価値のある画像へ 筆者の専門は広い意味では航空宇宙工学である。戦時中から戦後にかけて東大航空学科で活躍され,実際の航空機設計にも携われた山名正夫先生はその著書の冒頭で次のように述べられている。「スポーツの達人の動く姿は美しい。これを美しいと関知する美的感覚と,力学的な内容,例えば人のエネルギーを一つの目的に最も有効に使う効率の良さとの間に,いったいどのような関連があると考えればよいのであろうか。」 山名先生は「機能美」という言葉を実感として感じられていたのであろう。流線形の機体や最近の高速列車の形状などはたしかにとても美しい。ビジュアリゼーションにおける機能美とは何であろうか。これからのビジュアリゼーションでは「美しいが故に深い意味があり,見る人に多くのことを伝える」ような可視化画像やアニメーションを見てみたいものである。そして人間と機械の能力が結合することで両者の和以上のものが生まれることを期待したい。 藤井 孝藏(ふじい・こうぞう) 1974年東京大学工学部航空学科卒。1980年東京大学工学系研究科航空学博士課程修了。宇宙科学研究所宇宙輸送研究系高速流体力学部門教授。 |