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優秀賞「JIP賞」
『高圧下におけるグラファイトから
ダイヤモンドへの構造相転移』

東京大学物性研究所 常行研究室
●草部浩一(くさかべ・こういち)
●館山佳尚(たてやま・よしたか)
●荻津 格(おぎつ・ただし)
●常行真司(つねゆき・しんじ)


グラファイト(a)の圧力誘起構造相転移。
中間状態(b)において現れた層間の結合が成長して
六方晶ダイヤモンド(c)へと移り変わる。

(a) 

(b) 

(c) 


 超高圧を利用した人工ダイヤモンドの合成に見られるような,極限状態を利用した
合成・加工技術は,新しいデバイス開発の手法として期待されている。しかし未知構
造の予言や解析には,こうした極限状態での物質の原子レベルでの振舞いを“その場
観測”することが望ましい。いま,その有力な手法として,スーパーコンピュータを
用いた計算機シミュレーション,特に,ミクロスコピックな物理現象を高い精度で再
現しうる第一原理分子動力学法が注目されている。ここでは,炭素の高圧下における
相転移現象を例にとってその威力を紹介しよう。

第一原理分子動力学法
 原子間力を仮定する従来型の分子動力学法では,金属絶縁体転移のような電子状態
変化に対応できないなど,汎用性,信頼性において問題を残していた。それに対して,
密度汎関数理論に基づいた電子系のエネルギー計算により,原子配置の変化に応じて
電子状態を逐次決定してしまう第一原理分子動力学法は,原理的にはどのような物質
(元素,化合物),電子状態(金属,非金属)でも扱うことができる。実際の計算で
は局所密度近似を用いるが,エネルギー最低状態を共役勾配法によって高速に計算す
ることでpico second(10−12秒)におよぶ計算が可能になってきた。我々はさらに
結晶の変形にも対応するため,各時刻における原子間力のみならず内部応力の計算も
行う,圧力・温度一定の第一原理分子動力学プログラムを開発した。こうしてまさに
“第一原理”から任意の温度・圧力下における物質の状態を計算機中に再現し,原子
レベルの分解能で“直接観側”することを可能にしたのである。

炭素の構造相転移シミュレーション
 純粋なグラファイトを室温で圧縮すると,天然ダイヤモンド(立方晶構造)と異な
る六方晶ダイヤモンドヘの構造相転移が起こることが,東京大学の八木らによる最近
の実験で確認された。ごく最近,イタリアのスカンドロ(S. Scandolo et al. )らのグ
ループは,第一原理分子動力学法による炭素の圧力誘起構造相転移シミュレーション
を行ったが,我々は彼らとは独立に,実験的に示された炭素の構造相転移の再現を試
みた。さらに,原子配置や電荷分布の可視化により,相転移途中での原子間の結合状
態の変化を迫跡した。
 シミュレーションは,東京大学物性研究所のベクトル並列計算機(富士通VPP500/
40,最大演算性能64GFLOPS,主記憶13GByte)を用いて実行し,単位胞の構造・
原子配置および電荷分布を得た。これをAVSを用いて画像化し,アニメーションの作
成を行った。我々のシミュレーション画像においては,白い球は炭素原子を,透明度
が異なる2つの黄色い曲面はそれぞれが電荷密度の等値面を表している。はじめに,
有限温度(摂氏約200度)で無加圧のグラファイトでは,格子振動に伴った平面内で
の電荷分布の変動が見られる。加圧に伴って層間距離が縮まり,やがて水平方向に平
坦であったグラファイト層間に新たなボンドが形成されていく。その結果,炭素原子
間の結合が,平面的なsp 2結合から立体的sp 3結合へと移り変わり,六方晶ダイヤモ
ンドが生成される。これはまさに,ダイヤモンドの高圧合成実験を計算機の中に再現
したといえるであろう。