■遺伝子診断
1. 遺伝子診断
2. 遺伝子の本質を解明する
3. 遺伝的な誤りが原因となる病気
4. 最先端を行く
5. すべてを物語る遺伝配列をふるいにかける
6. 病気の遺伝子探しに狙いを定める
. 病気の遺伝子の配列を明らかにする
8. 革新的な複製技術の誕生
9. 結腸ガンの遺伝子を追う
10. 変質する医療
11. 遺伝子診断が投げ掛ける社会的ジレンマ
12. クレジット
遺伝子診断
 新生児ひとりひとりの細胞には,ひとそろいの遺伝的な指図が埋め込まれている。この分子レベルの青写真は子供がどう育つかや目が青か茶色かといったことを決めるばかりでなく,どんな病気になりやすいかにも関係している。遺伝子を調べると,後にガンや心臓病,アルツハイマー病などの病気になりやすいかどうかを予測できる。医師たちは個人のDNAからそれを調べだし,死に至るのを防げるのだろうか。次の記事は,科学者のオーキン(Stuart Orkin)とフェルセンフェルド(Gary Felsenfeld)の説明をもとに,科学者がその疑問に答えようと進めている遺伝子診断研究の軌跡を描き,科学がどう役立ち,基礎研究から想像もできない実用的な成果が生まれる典型例を示している。

 ベスの父親は結腸ガンで死んだ。父の母,つまりベスの祖母も同じ病気で死んだ。40歳代の2人の兄弟も結腸ガンと診断された。ベスは37歳だが,家族が呪われているように感じ,自分と子供の将来を案じた。彼女は父親から赤褐色の目だけでなく,若くして結腸ガンになりやすいという性質も受け継いでいるのだろうか。

 ベスにとって幸運なことに,研究者たちは彼女の家族を苦しめた欠陥遺伝子を突き止め,その遺伝子欠陥を持つ人が85%以上の確率で結腸ガンになることを明らかにした。研究者たちはさらに,「MSH2」と呼ぶこの遺伝子の欠陥を調べる診断手法を開発した。血液を採られて間もなく,ベスは不安から解放された。血液検査の結果,父親からMSH2遺伝子を受け継いでいないことがわかったのだ。検査はMSH2を調べただけで他の要因までは調べていないので,ベスが結腸ガンにかからないと断定はできない。だが,毎年受けていた不快で高額な結腸ガン検査がもう不要だとわかったし,余計な心配の必要もなくなった。

 ベスが受けたような簡便な遺伝子診断が可能になったのは,病気に関連する遺伝子を特定するという50年以上にわたる研究があったからこそだ。科学者の多くは,酵母の細胞が遺伝子の欠陥を検知して修復する仕組みがMSH2検査のような遺伝子診断に使えるとは考えてもみなかった。こうした遺伝子診断は,医療に新しい領域をもたらすとともに倫理的,社会的,法的な問題も提起している。
   
次へ
原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
このウェブサイトは米国科学アカデミー(NAS)と日経サイエンス社の取り決めをもとに作られています。
Copyright Japanese Edition 2002 by Nikkei Science, Inc. All rights reserved.
Copyright 2002 by the National Academy of Sciences. All rights reserved.
2101 Constitution A venue, NW, Wadhington, DC 20418