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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
爆発物から治療ガスへ
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1. イントロダクション
2. 心臓と血圧
3. 爆発性の治療薬
4. 細胞のメッセージに耳を傾ける
5. EDRFの発見
6. EDRFと一酸化窒素がつながる
7. 一酸化窒素の広がり
8. 将来の治療
9. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■爆発性の治療薬
 循環器系の解明がそこそこ論理的に進んだのに対し,狭心症の治療法の解明はそうとはいえなかった。1700年代後半には何人かの英国人医師が,狭心症で死亡した患者を解剖して心臓の血管が閉塞していることを発見し,狭心症と血管の閉塞が関連しているとにらんでいた。しかしこうした初期の考察にもかかわらず,その後の一世紀近くにわたって,多くの有力な医師たちは狭心症による胸の痛みは消化不良であると考え,胃酸を和らげる炭酸水などを処方した。心臓が問題の核心だとわかった後も,事態はあまり好転しなかった。英国の医学誌Lancetの1867年7月27日号に掲載された論文の中で,エディンバラにある王立病院のブラントン(T. Lauder Brunton)は,狭心症の治療薬としてブランデーやエーテル,アンモニア,クロロホルムを挙げている。クロロホルムを処方された患者は一時的に痛みが止まるが,クロロホルムの“局部麻酔”から覚めると再び痛みが戻るとブラントンは記している。
 
 しかしブラントン論文の中で本当の意味で発見といえるのは,亜硝酸アミルという物質が狭心症の痛みを和らげ,血圧を下げるということだった。彼が亜硝酸アミルを調べたのは,いくつかのヒントに刺激されたからだ。例えばその8年前,ある化学者が実験中に亜硝酸アミルを吸い込んだところ,体がほてり,動脈や心臓が高鳴ったと報告していた。ブラントンは亜硝酸アミルによってカエルの足の血管が拡張するのを知っていたし,人間でも血圧が下がると聞いていた。ブラントンは的確な道を歩んでいたが,亜硝酸アミルが体中の血管を弛緩させて効いているのだと誤解していた。しかし,実際に亜硝酸アミルが作用する部位は,梗塞のある心臓の血管だった。
 
 亜硝酸アミルには狭心症の症状を直ちに緩和する作用があるが,その持続時間は短い。もっと長続きする治療法を求めて,科学者たちはニトログリセリンをはじめとする関連化学物質を調べ始めた。ニトログリセリンはイタリア人化学者のソブレーロ(Ascanio Sobrero)が1846年に発明した非常に爆発しやすい液体だ。ソブレーロ自身,その爆発で顔にひどいけがを負い,危険すぎて実用的ではないと考えたほどだ。しかし,1860年代にノーベルはこれを建設工事で安全に利用する手段を見いだした。ニトログリセリンをシリカに混ぜ,液体のニトログリセリンをペースト状にして,棒の形に成型できるようにしたのだ。彼は1867年にこの材料について特許を取り,ダイナマイトと呼んだ。それから12年後の1879年,英国ロンドンにあるウエストミンスター病院のマレル(William Murrell)は希釈して爆発性をなくしたニトログリセリンを持続性の狭心症薬として推奨した。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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