小児白血病の
治療
1. 小児白血病の治療
―イントロダクション
2. 命を救われた少女
3. 標的を特定する
4. 鍵と鍵穴
5. 生産ラインを遮断する
6. 初期の化学療法
. 仮説に賭ける
8. 系統的な医学研究
9. 新たな展望
10. クレジット
標的を特定する
 細胞は生命の基本的な構成単位だ。人間の始まりは1個の細胞,小さな受精卵だ。これが成長・分裂して,成人では10兆個の細胞になる。デビーに使われた薬は,異常なガン細胞の中にある特定のタンパク質を標的(薬物の作用を受ける対象)にしていた。医薬品をデザインするには,まず細胞の構成と働きをよく理解する必要がある。科学者が細胞を初めて見たのは,1655年にフック(Robert Hooke)がコルク片を観察して箱型の形を発見した時だ。だが,それがどういうものか,長い間わからなかった。細胞はどんな働きをしているのか,また,どのように成長し,分裂するのだろうか?

 古くから利用されてきた発酵過程が細胞の活動を解き明かす糸口となった。酵母によるアルコール醸造だ。化学の理解が深まるにつれ,発酵が化学反応であり,何かがこの化学反応を促進していることがわかった。問題はまず,この物質が何であるかだ。1878年,キューネ(Wilhelm Khne)が細胞の中で化学反応をつかさどっているものを「酵素」と定義した。細胞の中にあるが,分離できるような物質だ。ところが,感染症の病原微生物原因説を提唱したパスツール(Louis Pasteur)はキューネのこの考え方を否定した。発酵は生きている細胞と分けて考えることはできず,生物全体としての特性であって部分的なものではないと主張したのだ。しかし,1897年にブフナー(Edward Buchner)がパスツールの考えを退けた。ブフナーは酵母細胞をすりつぶし,これを圧搾した液体でも発酵が生じることを示して,キューネの予想を証明した。

 細胞圧搾液で生じる反応を詳細に分析した結果,細胞中のあらゆる化学反応の原動力が酵素であることが明らかになった。ただし,酵素の正体を見極めるには,細胞の他の成分から酵素を分離する必要があった。1926年,コーネル大学のサムナー(James Sumner)はウレアーゼという酵素の精製に成功した。そして最終的には,細胞中で重要な化学反応を推し進めているこの酵素が大きなタンパク質分子であることを突き止めた。
   
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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