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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
エイズウイルスを無力に
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1. イントロダクション
2. 酵素の働きを探って
3. 阻害剤を設計する
4. エイズへの挑戦
5. ウイルスの繁殖を抑える
6. 標的をたたく
. 新たな展望
8. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■エイズへの挑戦
 分子生物学とドラッグデザインが軌道に乗り始めた一方で,1980年代初めには恐るべき難問が持ち上がってきた。医師たちの前に,異様な症状を示す患者が現れるようになった。通常とは違った肺炎や,普通はまれにしか起きない真菌感染,カポシ肉腫といった症例だ。医師たちはやがて,これら患者の免疫機能が著しく低下していることに気づいた。原因は不明だが,感染症の病原体と戦う免疫細胞が殺され,病状悪化とともに免疫細胞の数が着実に減っていた。現在,エイズとして知られる病気だ。医薬品を投与しても免疫細胞の減少は食い止められなかった。しかし1983年までに,フランスのパスツール研究所のモンタニエ(Luc Montagnier)の率いる研究チームと米国立ガン研究所のギャロ(Robert Gallo)が病原ウイルスのHIVを分離した。各国の研究者がHIVの分子解析に取り組み,治療は難しいとしても何らかの対処法は見つかると思われた。
 
 モンタニエはHIVがレトロウイルスであることを突き止めた。感染した宿主細胞の仕組みに自らの遺伝情報を組み込んで増殖していくという点では,レトロウイルスは他のウイルスと同じだ。しかし,遺伝情報をDNAの形で持っている他のウイルスと違って,レトロウイルスはRNAと逆転写酵素を持っている。レトロウイルスはRNAを鋳型に,逆転写酵素によってDNAを作ることで複製しており,宿主細胞中での情報の流れを逆転している。レトロウイルスは1911年にロックフェラー医学研究所のラウス(Peyton Rous)がニワトリにガンを引き起こすウイルスを発見してから知られるようになった。彼はこの業績により,1966年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。レトロウイルスは鳥やマウス,ネコ,ウシ,魚,ヒトなどさまざまな動物のガンに関与している。実際,ヒトのレトロウイルスとして最初に見つかったTリンパ球ウイルスI型はT細胞白血病を引き起こす。これは1981年にギャロが発見したウイルスだ。
 
 1970年代のいわゆる「ガンとの戦い」のなかで,レトロウイルスには共通の特徴があることがわかった。どんな種に感染するか,どんな病気を引き起こすかにはかかわりなく,レトロウイルスの粒子には10種類ほどのタンパク質があり,これらがウイルスの構造を作ったり,RNAをDNAにコピーしたり,そのウイルスDNAを細胞のDNAに組み込んだりといった機能にかかわっている。さらに,レトロウイルスのタンパク質は単体ではなく,いくつかの異なるタンパク質が糸状につながったポリプロテイン(複合タンパク質)であることもわかった。前駆体であるポリプロテインが切れて,個々のタンパク質に分かれることによって,それぞれのタンパク質が機能するようになる。この切断はレトロウイルスが持つプロテアーゼによって行われており,このプロテアーゼ自体がポリプロテインの一部になっていることが間もなく判明した。また,プロテアーゼが活性化するよりも前に,新たなレトロウイルス粒子ができてくることもわかった。感染細胞から新たに放出される粒子はポリプロテインしか含んでおらず,プロテアーゼが分離・活性化してポリプロテインを活性な形に切断するまでは健康な細胞に感染できない。
 
 こうした「ガンとの戦い」の研究蓄積があったおかげで,1980年代初めにエイズの流行に火がついたころには,レトロウイルスが複製する仕組みはよくわかっていた。このため,HIVが分離されてレトロウイルスだと特定されると,その遺伝子を解読するのにもそれほど長い時間はかからなかった。こうした知識をもとにHIVの複製サイクルの詳細が解明され,さまざまなプロテアーゼを含むHIVタンパク質が特定された。HIVが作り出すタンパク質のうち4つは酵素で,ドラッグデザインの格好の標的とみられた。科学者たちはこれらの酵素を作り出すウイルス遺伝子を微生物に組み込み,ウイルスの酵素を大量に作り出して詳細に調べた。特にプロテアーゼに関しては,30年前にトリプシンなどのプロテアーゼを研究したのと同様の方法で徹底的に調べられた。30年前との違いは,その活動を止める方法を探るという新たな目標が加わっていた点だ。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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