全地球測位システム(GPS)
1. イントロダクション
2. パイロットはどこだ
3. 正確な時間と場所
4. それは基礎研究から始まった
5. 時間の本質を調べる機器
6. ラビの時計
7. 実用的な使い道
8. GPSとその将来像
9. クレジット
実用的な使い道
 第2次世界大戦後,米国規格基準局(現在の国立標準技術研究所)と英国立物理研究所はそれぞれ,ラビたちの原子共鳴の研究に基いた原子時間標準の作製に乗り出した。初の原子時計は英国立物理研究所のエッセン(Louis Essen)とパリー(John V. L. Parry)によって作られたが,この時計は一部屋をまるまる占領するほどの大きな装置だった。

 ラビの同僚だったMITのザカライアス(Jerrold Zacharias)は原子時計を実用的な装置にしようと試みた。ザカライアスは彼が「原子泉」と名づけた夢のような原子時計を作る計画を持っていた。アインシュタインが予言した重力の時間への影響を調べられるほど高精度の時計だ。その過程で,実験室から実験室へと車で運べる小型の原子時計を開発した。1954年にザカライアスはマサチューセッツ州モールデンのナショナル・カンパニー社に加わり,このポータブル装置をもとにした市販用原子時計の製造に取り組んだ。同社は2年後,初の市販用原子時計「アトミクロン」を開発し,4年間で50台を販売した。現在のGPSに使われているセシウム原子時計はいずれも,この「アトミクロン」から派生している。

 物理学者たちは,ラビと彼の学生らの原子共鳴のアイデアにさまざまな改良を加えて実験し,原子時計に生かした。磁石を使う代わりに光ポンピングという現象を利用して,時を刻む原子のエネルギー準位を選び,光ビームを当てたすべての原子を望みの準位にそろえる。この研究により,パリの高等師範学校のカスレ(Alfred Kastler)は後にノーベル賞を受賞した。今日,多くの原子時計はセシウムではなく,光で励起したルビジウム原子を使っている。ルビジウム時計はセシウム時計よりもかなり低価格で小型だが,正確さは劣る。

 原子時計のもう1つの種類は,水素メーザーとして知られている。メーザーはそもそも1954年にコロンビア大学のタウンズ(Charles Townes)らが行った分子構造の研究から生まれたもので,この業績でタウンズは1964年のノーベル物理学賞を共同受賞した。メーザーはレーザーの前身となった装置で,原子や分子からの放射を直接利用してマイクロ波の信号を発生させる。タウンズが開発した最初のメーザーはアンモニアを使っていたが,ハーバード大学のラムゼーらは1960年に水素を使い,超高精度の原子時計として働くメーザーを開発した。

 1967年までに原子時計の研究は非常に実りある成果をあげ,時間の単位である「秒」がセシウム原子の振動に基づいて定義し直されることになった。今日の一般的な原子時計は10万年に1秒の狂いが出る程度の高精度だ。米国の時間標準は米国立標準技術研究所で最近稼働を始めた原子時計「NIST-7」で,その推定精度は300万年に1秒の狂いしかないほどだ。

 セシウムビーム時計,水素メーザー時計,ルビジウム時計の3つはいずれも,長年にわたって人工衛星や地上管制システムなど宇宙分野で利用されてきた。GPS衛星はついに,ラビが60年前に思い描いた原子時計と似たセシウム時計を利用するようになった。

 国防総省が構想を立ててから20年経った1993年,24番目の人工衛星が打ち上がってGPSはフル稼動状態になった。衛星は米空軍が管理しており,世界に5つある地上基地から監視されている。収集したデータはコロラド州の空軍統合宇宙作戦センターで分析され,時計と軌道データを更新して毎日,各衛星に送り返されている。

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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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