全地球測位システム(GPS)
1. イントロダクション
2. パイロットはどこだ
3. 正確な時間と場所
4. それは基礎研究から始まった
5. 時間の本質を調べる機器
6. ラビの時計
. 実用的な使い道
8. GPSとその将来像
9. クレジット
パイロットはどこだ
 1995年6月6日午前2時8分,F16戦闘機に乗った米空軍パイロットがボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人占領地域上空を飛行中,無線に「こちらバッシャー52」という声が飛び込んできた。「バッシャー52」は,この空域で4日前にセルビア軍によって撃墜された米軍のF16戦闘機パイロット,オグレディ(Scott O'Grady)大尉のコールサインだ。29歳のパイロットはその前に緊急脱出に成功していたものの,編隊僚機のパイロットは燃え盛る機体から彼がパラシュートで脱出するのを見逃していたのだ。

 オグレディが敵前線の向こう側に降りてから4日が経っていた。草と昆虫を食べ,日中は偽装ネットの下で眠り,夜の間に移動した。そしてついにパイロットと無線交信をするという賭けに出た。こうしてオグレディの位置がパイロットによって確認され,海兵隊の第24海兵遠征部隊および同部隊の航空機・人員回収作戦(TRAP)専門チームに救助が要請された。その後4時間以内に,捜索・救出チームがアドリア海の空母キアサージを飛び立ち,ボスニアへと向かった。午前6時50分までに,TRAPチームは模範的で劇的な救出作戦を遂行してオグレディを拾い上げ,セルビア軍の小火器の銃火を切り抜けて母国へと向かっていた。その日遅く,バージニア州アレキサンドリアに住むオグレディの父,ウィリアム(William O'Grady)のもとに,息子は無事で心配はないという知らせが届いた。

 マスコミによって一躍ヒーローに祭り上げられたオグレディは,「危険を顧みずに自分を救出してくれた」海兵隊に称賛と感謝の意を表した。だが,海兵隊が救出作戦をものの見事な正確さで実行できたのにはもう1つの理由があった。オグレディが降下した時,そのライフジャケットには全地球測位システム(GPS)として知られる24の衛星ネットワークにつながった携帯型無線受信機が入っていた。これによって,オグレディは敵陣内での自分の位置(緯度と経度,高度)を数十mの精度で知り,その位置を上空の空軍パイロットや救出に向かった海兵隊員に送信することができた。この救出劇を可能にした技術の一部が,60年ほど前の原子と原子核の基本性質に関する基礎研究から生まれ出たのを,オグレディや救出メンバーは知っていただろうか。
   
    画像をクリックして詳細をご覧いただけます。
   
前へ 次へ
原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
このウェブサイトは米国科学アカデミー(NAS)と日経サイエンス社の取り決めをもとに作られています。
Copyright Japanese Edition 2002 by Nikkei Science, Inc. All rights reserved.
Copyright 2002 by the National Academy of Sciences. All rights reserved.
2101 Constitution A venue, NW, Wadhington, DC 20418