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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
レーザーと眼科手術
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1. イントロダクション
2. はっきり見えます
3. 網膜――視覚の中枢
4. 一方,物理学の世界では…
5. 光のパワー
6. 分子に光を発生させる
7. まさにうってつけだったレーザー
8. アルゴンレーザーの登場
9. 目的に合ったレーザーを求めて
10. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■網膜――視覚の中枢
image 眼の働きに関する近代的な概念はルネサンス期に生まれた。ドイツの偉大な天文学者で物理学者でもあったケプラー(Johannes Kepler)の研究がその最たるものといえるだろう。いくぶん単純ないくつかの実験と計算に基づいて,ケプラーは眼のレンズが光を屈折させているだけであって,入って来た光線を曲げて網膜に焦点を結ばせる働きを角膜とともに果たしていることを突き止めた。1604年に出版された『ウィテロの追加』(Ad Vitellionem Paralipomena)の中で,ケプラーは光の理論のほか,視覚の生理学や屈折についての数学的解釈など,新たな学説を世に送り出した。特に「焦点」という用語を導入して,網膜の手前で光線が収束してしまうのが近視の原因であることを示した。いうまでもないが,近視とは近くのものははっきり見えるが,遠くのものはぼやけて見える状態だ。当時は眼鏡が使われるようになってからすでに400年近くたっていたが,人工のレンズがなぜ,どのように視覚を改善するのか,ケプラー(彼自身も近視だった)が研究するまではだれも理解していなかった。
 
image その後の300年間,医師と解剖学者は眼の機能と疾患についての知識を深めていき,網膜が傷つくとなぜ視覚がめちゃめちゃになってしまうのかをついに理解した。簡単にいうと,眼球の底を覆っているこの薄い細胞層はカメラの中にあるフィルムのようなものだ。フィルムが傷つくと,カメラ本体の機能が完璧であっても,きれいな写真は撮れない。網膜という生物学的な“フィルム”は脳の神経組織そのものが眼の奥へと伸びてできたものだ。胚での発生の初期に,脳や脊髄のもととなる「神経管」が生まれ,ここから「眼胞」という組織が2つできる。眼胞はそれぞれが内側へ折りたたまれ,「眼杯」となる。眼杯の内壁には神経上皮と呼ぶ細胞層があり,これが最終的には網膜になる。発生の過程で,眼杯の内壁の細胞は視覚に必要となる網膜細胞へと分化する。一方,外壁の細胞は色素上皮へと分化し,眼球の底面を覆う。網膜が非常に傷つきやすいのは,これら2つの細胞層を接着させるものが普通はないためだ。視神経の周囲など一部を除くと,網膜は硝子液の圧力だけによって,色素上皮と眼球背面に対して保持されている。
 
 網膜剥離は自然発生的に起きる場合がある。突然の打撃を受けるといったことがなくても発生するのだ。この理由は長い間わからなかったが,1918年にゴーニン(Jules Gonin)は自然発生的な網膜剥離の場合は網膜に穴が開いている例が多いことをスイス眼科学会で発表した。眼科医たちは最終的に,網膜の裂け目を通じて漏れた硝子液が網膜と色素上皮との間ににじみ出し,網膜を眼球の後壁から引き離すのだと理解した。これが起きると視覚は失われる。さらに,剥離した網膜が色素上皮から長く離れたままでいると,色素上皮からの必須栄養素の供給が途絶えて,網膜の神経細胞が死んでしまう。
 
 ゴーニンは最初の発見から2年後の1920年に,「烙刺法」と呼ぶ処置によって数人の網膜剥離患者を治療したと報告した。高温に熱した器具によって強膜(眼の外側の不透明な層)を焼き,慎重に穴を開けて,網膜の下にたまった硝子液を逃す。この手術の成功率は53%にとどまり,異論が多かった。結局,網膜疾患を治療する別の手法がいくつか考案されたが,それもあまり大きな進歩とはいえなかった。電気的に発熱する探針を網膜に接触させるジアテルミー(透熱療法)という処置では,やはり眼球を切開する必要があり,傷口が治るにつれて眼球壁が大幅に収縮する場合が多かった。隣接部を大きく損傷することなしに網膜の破れを治療できるようになったのは,1960年代に寒冷療法(凍結法)が登場してからだ。これらの処置はいずれも,網膜組織に凝固を引き起こしたり組織を傷つけたりすることによって網膜の破れをふさぐもので,危険なうえ苦痛を伴い,回復に長い時間がかかった。
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