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BEYOND DISCOVERY
日経サイエンス
人工内耳の進歩
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1. イントロダクション
2. 黎明期
3. 内耳が音を認識する仕組み
4. 耳が聞こえなくなるわけ
5. 人工内耳技術の発展
6. 蝸牛は脳に何を伝えるのか
7. 聴神経が壊れると…
8. 有毛細胞の働き
9. 内耳が発する音
10. 補足記事
人工内耳と聴覚障害者の文化
11. 補足記事
難聴の5大原因
12. クレジット
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BEYOND DISCOVERY
THE PATH FROM RESEARCH TO HUMAN BENEFIT
■内耳が発する音
 ハドスピスをはじめとする研究者の実験によって有毛細胞の働きが細部まで詳しく解明されたが,内耳にはまだ驚くべき働きがあるようだ。近年に見つかった最も奇妙な現象は「耳音響放射」だろう。1977年,ロンドン大学耳鼻咽喉科のケンプ(David Kemp)は,蝸牛が音を感じるだけでなく,自ら音を「発して」いることを発見した。耳鳴りという現象はほとんどの人が知っている。この耳鳴りが完全に主観的な現象とは言い切れず,実際に耳が音をたてている場合があるのだ!耳の中に敏感な集音マイクを取り付けてみたところ,蝸牛の中の何かが小さな拡声器のような働きをし,音を発生していることが確認された。
 
 耳音響放射は研究上の興味の対象であるばかりではなく,臨床と基礎研究の両面で重要な意味を持つことが判明した。聴覚専門医にとって,耳音響放射を測定する装置は聴覚検査に役立つ。特に乳幼児や言葉を話せない人々を検査するのに有効だ。例えば乳幼児は音が聞こえているかどうかを言葉で言い表せないので,通常の聴覚検査を受けられない。聴覚が正常な人は必ず耳音響放射が起こるので,耳音響放射が起きる乳児は耳が聞こえ,起きない乳児は聴覚に異常があると考えてよい。
 
 何が耳音響放射を引き起こしているのか,そして耳音響放射が正常な聴覚に何か関連しているのかを解明しようと,研究が続いている。有毛細胞には内有毛細胞と外有毛細胞の2つの種類があり,これまでのところ外有毛細胞の振動が耳音響放射の元であることがわかっている。長年にわたり,外有毛細胞は謎に包まれていた。外有毛細胞の数は内有毛細胞の3倍もあるのだが,スペンドリン(Heinrich Spoendlin)は聴神経線維の90%以上が内有毛細胞とつながっていることを1966年に発見した。1985年には,現在はベイラー医科大学にいるブラウネル(William E. Brownell)が,外有毛細胞が電場の変化に応じて振動することを発見した。外有毛細胞が音の刺激を受けると電場を発生することはすでに知られていたので,ブラウネルの発見を考え合わせると,外有毛細胞は電場を発生するとともに,その電場の刺激を受けることがわかった。この正のフィードバックシステムがおそらく耳音響放射をもたらし,内有毛細胞の感度を高めて音の周波数のわずかな違いを感じる能力を高めていると考えられる。あなたがシとシのフラットの違いを聞き分けられるとしたら,それは耳音響放射のおかげだ。
 
 このほかの有望な研究としては,騒音や感染症,一部の薬剤によって有毛細胞がどのように損傷を受けるのかを追求する研究がある(難聴の5大原因に関する補足記事を参照)。何が有毛細胞を傷つけるかがわかれば,有毛細胞を守る手段も講じやすくなる。
 
 また,興味深いことに,失われた有毛細胞を再生できるかもしれない。通常,哺乳類と鳥類の有毛細胞は胎児期にしか作られず,いったん失われると再生することはない。しかし,魚類と両生類は生涯にわたって新しい有毛細胞を作り続ける。1987年,サウスカロライナ医科大学のコタンシュ(D. A. Cotanche)とバージニア大学医学部のクルーズ(R. M. Cruz)はそれぞれ,若いニワトリの有毛細胞が傷ついた場合,コルチ器官に相当する器官にある支持細胞がこれに置き換わって再生することを発見した。
 
 世界中の研究者が,哺乳類,特にヒトでも有毛細胞を再生できるか,できるとしたらその最善の方法は何かを探っている。まだ最終的な答えは出ていないが,一部の研究者は合理的な根拠をもとに再生は可能だと考えている。この望みがかなえられれば,聴覚に関する何百年もの基礎研究が実を結び,いずれは聴覚障害を完治できるようになるだろう。
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原文はNASのBeyond Discoveryでご覧になれます。
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