日経サイエンス1994年:掲載論文一覧

「日経サイエンス」掲載論文一覧
※各項目は,掲載ページ,論文名,著者名,内容の要約の順に並んでいます。

 

 

1994年1月号

P19「X線天文学の展開」

小田 稔

1960年代のX線星の発見を契機に,X線天文学は大きく発展した。そこから,物理学の基本に触れる

多くの問題が提示されている。

 

P23「日本のX線天文学の成果 「ぎんが」から「あすか」へ」

牧島一夫/井上一/田中靖郎

日本の最新衛星は世界最高の性能をもつ観測装置を搭載し,暗黒物質やX線背景放射など宇宙論に

つながる難題に挑む。

 

P32「『ようこう』がとらえた太陽の激しい活動」

内田 豊/小川原嘉明

太陽や恒星の物理の教科書を書き換えるほどの成果が日本のX線天文衛星によってあがり,

世界の注目を集めている。

 

P40「X線連星の多彩な生涯」

E.P.J.ファンデンフーベル/J.ファンパラディス

この連星では超高密度星が伴星を食べてしまい両星は数奇な運命をたどる。

 

P50「アセチルコリン受容体の構造と機能」

J-P.シャンジュー

アセチルコリンなど神経伝達物質の受容体の構造は互いに良く似ており,ごく一部の違いが機能の

違いを生み出していることがわかってきた。

 

P62「電力系統を制御する半導体デバイス」

N.G.ヒンゴラニ/K.E.スタールコフ

サイリスタに代表される大電力用の半導体デバイスは,停電事故や不安定性を回避して電力系統の

信頼性を高めるとともに,既存施設の送電容量を増加させる。

 

P72「古代のDNA」

S.ペーボ

絶滅した動植物が残した組織や骨から,DNAを抽出できるようになった。現生種との比較から,

進化の過程で生じた遺伝子の変異を直接観察できる。

 

P102「自由貿易は環境破壊をもたらすか--自由貿易の立場からの環境議論」

J.バグワティ

自由貿易と環境保護は性格の異なる問題である。両者の対立を解決するには互いの好意と想像力に

よって制度上の改革を図る必要がある。

 

P110「自由貿易は環境破壊をもたらすか--自由貿易の落とし穴」

H.E.デイリー

自由貿易推進派は,環境や社会が負うことになる見えないコストを無視している。国内市場のための

国内生産こそが経済の基本である。

 

P138「女性科学者はなぜ少ないか」

M.ハロウェイ

科学界では女性はまだまだ少数派である。教育現場での無意識の性差別や職場での制度の遅れなど,

原因はいくつもあって単純ではない。

 

 

1994年2月号

P18「日本が開発したウラン濃縮技術『化学法』」

垣花秀武/武田邦彦

米国の原子力委員会が,3%の濃縮ウランの得るのに数世紀もかかり実用にならないと評価した

「化学法」が,日本の技術で見事に実を結んだ。

 

P30「コンプトン・ガンマ線観測衛星が見た宇宙」

N.ゲールス/C.E.フィクテル/G.J.フィッシュマン/J.D.カーフェイス/V.シェーンフェルダー

米国が1991年に打ち上げたこの衛星は,短時間のうちに輝くガンマ線バーストをはじめ活動銀河核や

超新星,パルサーの観測で目をみはる成果をあげている。

 

P42「MHC遺伝子の多様性が語る人類の起源」

J.クライン/高畑尚之/F.J.アヤラ

免疫反応にかかわるMHC遺伝子の多様性は,病原体から身を守るための祖先からの遺産であり,

現代人が大集団として進化したことを示している。

 

P58「生物に見られるリズムの同調現象」

S.H.ストロガッツ/I.スチュアート

ホタルの大集団が足並みを揃えて一斉に明滅を繰り返すように,複数の振動子のリズムが同調する

現象は生物で数多く見られ,その数学的説明が試みられている。

 

P70「米国に進入したキラービー」

T.E.リンダラー/B.P.オルドロイド/W.S.シェパード

執拗に人や家畜を襲うとして恐れられているアフリカミツバチは,穏やかなヨーロッパ系と攻撃性の

強いアフリカ系の交雑によって生まれた。

 

P80「1994年 科学の挑戦。」

非対称性の未来を探る「素粒子ファクトリー」/遺伝子治療のビジネスが芽を出し始めた/

多孔質シリコンは多芸多才だが,本物か?/音の色-音波発光にスポットを当てる/臨床試験を

持つ人工肝臓装置/脳は最高位の統合場所をもっているか/氷河と海底が明かす気候の激変/

「太陽ニュートリノ問題」を追う。

 

P92「ここまでわかったニュートリノの質量」

江尻宏泰

ニュートリノは質量が小さく,宇宙の暗黒物質の主成分でないことが明らかになってきた。

その一方で新しい力の統一理論構築の夢が広がっている。

 

P102「米国の超伝導研究開発」

P.ヤン

高温超伝導の“誇大広告の時代”はとうの昔にすぎ去った。米国の研究者は,その約束された未来に

向けて着実な歩みを続け一部は商品にまで結びついた。

 

 

1994年3月号

P18「薬を生み出す発想」

編集部ほか

分子レベルで生体のさまざまな機構が解明されるにつれて,薬づくりの発想と過程が変わってきた。

21世紀が目指すドラッグデザインを探る。

 

P18「新世紀への薬の創造」

野口照久

画期的創薬の源泉を生命プログラムに求めて。

 

P24「カルシウム拮抗薬の発見」

長尾 拓

日本が誇る医薬「ジルチアゼム」の研究・開発を通して,創薬を支える発想の重要さを考える。

 

P26「光学活性と医薬品開発」

加藤隆一

より安全性と有効性の高い薬づくりのために,エナンチオマーの研究が生かされている。

 

P32「受容体構造に基づいたドラッグデザイン」

C.E.バグ/W.M.カーソン/J.A.モンゴメリー

受容体の立体構造をもとにした薬物設計により,有望な新築が誕生しつつある。

 

P42「リード化合物を創製する」

板井昭子/富岡伸夫/西端芳彦

コンピューターの有効利用によって,合理的かつ論理的なドラッグデザインが可能になりつつある。

 

P46「創薬の歴史と展望」

山崎幹夫

セレンディピティからメカニズム・オリエンテッドへ,今世紀後半,薬づくりは大きな転進を遂げた。

 

P52「ストレンジクォーク物質を探す」

H.J.クローフォード/C.H.グライナー

核物質は,原子核と中性子星という2つの極端な形でしか見つかっていない。この空白を埋めるため,

加速器によるストレンジクォーク物質の探索が始まった。

 

P60「ラン藻の毒」

W.W.カーマイケル

ラン藻類が作り出す神経毒や肝臓毒は,しばしば野生動物や家畜の死因となるが,この毒を医薬品に

応用する研究も行われつつある。

 

P70「計算可能な問題を解く新手法」

J.F.トラウブ/H.ウォズニアコフスキー

多変数を扱う積分問題などは計算時間がかかりすぎて解けないと考えられてきたが,「平均時基準」と

呼ばれる手法を使えば短時間で解けるようになる。

 

P96「湿原--ダイナミックな生体系」

J.A.カスラー/W.J.ミッチ/J.S.ラースン

近年,湿原に対する評価が高まっているが,ダイナミックに水位を変え,姿を変える湿原の特性は,

必ずしも正確に理解されていない。

 

P106「動物の性の本質」

D.クルーズ

脊椎動物の中には,環境によって性別が決まるものもある。雌雄決定のメカニズムを調べることに

よって,性の本質が見えてくる。

 

P116「ガン克服への戦い」

T.バーズレイ

米国では1971年に「国家ガン法」が成立して,本格的な“戦い”が始まった。しかし,基礎医学や

治療法の進歩にもかかわらず,ガン死亡率は減少していない。

 

 

1994年4月号

P20「サイエンス・ビュー 特集 遺伝子治療」

編集部ほか

遺伝病の根本的な治療として登場した遺伝子治療は,ガンやエイズにも適用され始め,将来は

成人病の治療にも役立つと考えられている。しかし,技術的な課題があってまだ治療できない

疾患も多く,研究は急ピッチで進んでいる。

 

P21「遺伝子治療の現状 1.広がる対象疾患/2.カギを握るベクター/3.課題と展望」

編集部

タンパク質の設計図である遺伝子を体内に入れて病気を治す遺伝子治療対象疾患は遺伝子病だけ

ではなく,ガンやエイズに広がっている。その一方で,既存の技術では治せない疾患もあり,多くの課題が残っている。

 

P32「センダイウイルスを使った新しいベクター系」

中西真人

高い遺伝子導入効率・非分裂細胞への導入・安定した発現--著者の膜融合リポソームと酵母の

人工染色体の技術を組み合わせればこの3つの条件を実現する理想的なベクターも夢ではない。

 

P39「リポソームを使った脳腫瘍の治療」

八木國夫

遺伝子治療にふさわしいように安全性が高くて導入効率も高いリポソームを作製。悪性脳腫瘍

グリオーマの動物での治療実験に成功した。

 

P46「硫酸塩エアロゾルと気候変動」

R.J.チャールソン/T.M.L.ウィグレー

産業が排出する硫黄化合物は大気を冷やす効果があり,これを規制すれば温室効果ガスの働きで

地球の温暖化が急速に進んでしまう可能性がある。

 

P56「ヒトとハエで共通する体づくり遺伝子」

W.マックギニス/M.クジオラ

ヒトのタンパク質をショウジョウバエのゲノムに入れる実験によって,発生過程で体の形を決める

共通の分子機構があることが明らかになった。

 

P66「信じられなくなった写真」

W.J.ミッチェル

現在の写真合成は,デジタル技術を使ってコンピューターの中で行われる。そのため,写真だけでは,

それが本物か偽物か見分けられないものもある。

 

P74「液体パラボラ望遠鏡」

E.F.ボラ

洗濯機のスイッチを入れると中の水が渦になってくぼむが,これと同様の方法で液体金属に凹面を

作れば,安価で大口径のパラボラ望遠鏡が建設できる。

 

P114「南米にいた大型肉食鳥類」

L.G.マーシャル

恐竜の絶滅後,数千万年にわたって南米大陸の食物連鎖の最高位に君臨していたのは大型の鳥だった。

この鳥の栄枯盛衰は大陸の移動と密接な関係がある。

 

P122「トレンド 素粒子研究はどこへ行く」

J.ホーガン

SSC計画が中止に追い込まれた今,どのように統一理論を探求していくか,物理学者たちは

頭をかかえながらも知恵をしぼっている。

 

P134「エイズの拡大を防ぐ注射針交換プログラム」

D.C.デス・ジャーレイス/S.R.フリードマン

薬物使用者のエイズ感染が世界50カ国以上で報告されているが,適切な予防プログラムの実行に

よって,エイズ拡大を阻止することが可能だ。

 

 

1994年5月号

P20「サイエンス・ビュー 複雑系の科学」

編集部ほか

単純な物質から複雑な生命が生まれる現象はどんな物理法則に従っているのだろうか。自然の

複雑多様性を引き起こす物理法則を探求する「複雑系」の研究は,生命とは何かという大きな

テーマに新しい問題を提起している。

 

P22「生命の自己組織--適応する生命力」

沢田康次

細胞の無秩序な集団が密な情報交換を行うことによって個体としての生命のバトンは,個々の

細胞から多細胞体制の細胞集団に移る。

 

P28「細胞の適応を探る」

大沢文夫

細胞内部で生み出される自発情報は細胞に入る外来情報と組み合わされて変動する環境での

探索型適応行動を促す。

 

P34「多様性を生み出すカオス」

金子邦彦

細胞文化のように同じ性質のものから違う性質のものが分かれたり要素と要素の“仲のよさ”が

変化したり多様性が維持されたりする現象がカオスを示す要素のネットワークモデルでつくられた。

 

P42「カオスで脳を見る」

津田一郎

脳はカオスを基礎としてダイナミックに機能しており,そうした脳を理解するためにはカオスの

超越的性質を記述する方法論の樹立が必要である。

 

P52「遺伝子ターゲティング」

M.R.カペッキ

特定の遺伝子を人為的に破壊した“ノックアウトマウス”は,遺伝子の機能を調べるうえで格好の

材料となるだろう。

 

P64「タイムマシンの量子物理学」

D.ドイッチ/M.ロックウッド

量子物理学の世界ではいくつもの世界が同時に成り立つ。現代物理学の基礎理論によれば,

時間旅行は決して不可能ではない。

 

P84「砂漠のカエル」

L.L.マクラナハン/R.ルイバル/V.H.シューメーカー

彼らは,体をロウで防水加工して水分の蒸発を防いだり,地中深く潜って雨を待ったりして,

水分欠乏状態を切り抜けている。

 

P94「シリコン・ゲルマニウム混晶で実現する高速素子」

B.S.メイヤーソン

シリコン素子では不可能と考えられていた高速動作を,シリコン・ゲルマニウム混晶を使って現在の

製造技術の延長線上で達成した。

 

P102「大西洋中央海嶺の冷たいホットスポット」

E.ボナッティ

ノチール号による海底岩石の調査から,マントルの温度が平均値より低く,水を多く含んだ

“ウエットスポット”の存在が明らかになった。

 

P114「100億人を養う食糧生産は可能か」

J.ボンガーツ

2050年までに世界人口は100億人になると予測されている。耕地の拡大や面積あたりの増産は

技術的には可能だが,コストを抑えられるだろうか。

 

 

1994年6月号

P16「サイエンス・ビュー 数学の現在」

編集部ほか

フェルマの最終定理が“紙と鉛筆”で解かれようとしている。この出来事が端的に物語るように,

コンピューター全盛の今日でも,純粋数学はなお独自の世界を開きつつある。フラクタル,カオス,

複雑系といった計算機を使う数理科学,あるいはソリトンや超弦理論といった理論物理学など,

いわば“昔の兄弟”からの刺激を受け入れながら,純粋数学は新たな地平をめざしていく。

 

P18「進化する純粋数学の夢」

山下純一

コンピューターや理論物理学からの「圧迫」の中で純粋数学の夢は新たなステージへとシフト

しつつある。

 

P30「数から見た数学の展開」

黒川信重

現代数学では数という概念をどんどんと拡張してきた。そのための重要な手法である「ゼータ関数」は,

不思議な世界を垣間見せている。

 

P40「式から見た数学の深化」

若山正人

新しい対称性に基づく「非可換幾何学」が注目されている。この幾何学は,ソリトンや超弦理論など,

理論物理学のトピックスをも射程に入れている。

 

P58「“心”をみる画像技術」

M.E.レイクル

脳を画像化するPETやMRIの技術と認知科学の結び付きによって,脳の広範囲な神経活動を可視化する

ことが可能になった。

 

P92「不思議な物性を引き起こす電荷密度波とスピン密度波

S.ブラウン/G.グリューナー

好き勝手な方向に運動する電子の集団と違い,結晶状に配列して運動する電子の集団は,わずかな

電圧に対して劇的に応答するといった不思議な性質を示す。

 

P102「前立腺ガン治療のジレンマ」

M.B.ガーニック

前立腺ガンの手術や放射線治療は深刻な副作用を招くことがあるため,患者にとっても医師に

とっても治療法の選択が大きな問題となっている。

 

P114「パイオニア・ビーナスが明らかにした金星の素顔」

J.G.ルーマン/J.B.ポラック/L.コリン

“双子”と称される地球と金星は驚くほど隔たった進化過程をたどってきたことが,14年にわたる

金星探査機の観測で明らかになってきた。

 

P124「トレンド 生態系の復元は可能か」

M.ハロウェイ

何をもって「復元できた」とすればよいのだろう。フロリダ州大湿地帯の復元計画を機に,政治家・

研究者・市民の間でさまざまな意見が出ている。

 

P138「グルメのための分子・物理学」

N.クルチ/H.ティ=バンクアール

科学の知識を活用すれば料理の世界はもっと広がる。液体窒素で素早くアイスクリームを作ったり,

「アイスクリームの天ぷら」の逆の物を作ることもできる。

1994年7月号

P18「もうひとつの量子力学」

D.Z.アルバート

現在の量子力学では,自然法則の根底は「偶然」が支配することになっている。しかし,ボームが

構築した理論は,これに真っ向から挑戦する。

 

P30「インターフェロンはどのように病気と戦うか」

H.M.ジョンソン/F.W.ベイザー/B.E.センテ/M.A.ジャープ

インターフェロンはうつ病などの副作用が懸念される一方,感染症やある種のガンの治療に効果を

発揮しており,その作用の仕組みも詳しくわかってきた。

 

P40「超高速専用計算機GRAPE」

戎崎俊一

ワークステーションにつながれた小さなボードがスーパーコンピューター以上の能力を発揮し,銀河の

進化やタンパク質の構造の研究に威力を見せはじめている。

 

P58「ナメクジの脳でみる記憶と再認」

木村哲也

ナメクジの脳に記憶が蓄えられる時,また,その記憶と照らし合わせて今あるものを認識する時に,

脳内で何が起きているかが明らかになりつつある。

 

P68「ボネステルが描いた宇宙への夢」

R.ミラー

1940年代から60年代にかけて1人の芸術家が描いた作品が,天文学に豊かな創造性を吹き込むとともに,

有人飛行計画を実現する推進力となった。

 

P92「イーストサイド物語--人類の故郷を求めて」

Y.コパン

アフリカのリフトバレーは,800万年前に人類と類人猿の共通祖先を東西に隔てた。この地殻変動と

その後の環境変化によって,ヒトが誕生した。

 

P102「論争 同性愛は生物学で説明できるか-男性同性愛にみられる生物学的根拠」

S.ルヴェー/D.H.ヘイマー

最近の研究によって,脳の特定部分の相違や遺伝子学的な特徴が,性傾向と深くかかわっていることが

わかってきた。

 

P110「論争 同性愛は生物学で説明できるか-明確ではない生物学的差異」

W.バイン

現在のところ,遺伝子や脳についての証拠は不十分である。行動の解明には,生物学的要因と

社会的要因の相互作用の研究が不可欠だ。

1994年8月号

 

P18「サイエンス・ビュー 生きている化石」

編集部ほか

地質時代から形態を変えないまま生き残っている生物がいる。こうした生物は,化石だけでは

わかりにくい古生物の生き方を知る手がかりになる。また,なぜ進化しなかったのかという難問を

突きつけている。

 

P22「古生物の謎を解くカギ」

加瀬友喜

生きている化石の研究は,古生物学上の謎を解く,重要な情報を提供する。熱帯地域のサンゴ礁の

海底洞窟には,生きている化石群集が存在している。

 

P32「メタセコイアの繁栄と衰退」

百原 新

生きている化石植物として名高いメタセコイアは,第四紀の日本から突然に姿を消してしまった。

 

P39「1400万年変わらない高等霊長類ヨザル」

瀬戸口烈司

高等霊長類は進化が速く「生きている化石」はいないとされていた。しかし,ヨザルは恵まれた

環境の中で形態を変えずにいた。

 

P44「なぜ形態が変わらないか」

千葉 聡

生きている化石は,例外的な生物なのだろうか。進化のパターンを見ると決してそうではないことが

わかる。

 

P50「古典力学的極限の原子をつくる」

M.ノーエンバーグ/C.ストラウド゙/J.イーゼル

レーザーパルスを原子に当てて巨大な原子をつくると,電子状態は量子力学的性質と古典力学的性質の

両方をあわせもつことが示された。

 

P58「情動・記憶と脳」

J.E.ルドー

現代の神経科学は,いよいよ,心の問題にも踏み込み始めた。今回,「恐怖」という情動に関して,

その体験を記憶する神経回路網が明らかになった。

 

P82「望遠鏡の性能を向上させる補償光学」

J.W.ハーディー

地上の望遠鏡で星を観測すると像がぼけるのは大気がゆらぐためだが,ゆらぎの効果を補正する

光学系を望遠鏡に装備すれば,像は鮮明になる。

 

P90「ミツバチは音とダンスで情報を伝える」

W.H.キルヒナー/W.F.タウン

本物のミツバチと同じように踊りながら音を発するロボット蜂を使った実験によって,ミツバチの

「ダンス用語」が解明された。

 

P100「新薬開発の民族植物学的アプローチ」

 

P.A.コックス/M.J.バリック

伝統的な医療法をもつ民族社会に受け継がれてきた薬用植物は,現代の医薬品開発にとっても,

大きな価値のある財産である。

 

P110「トレンド 遺伝子診断と米国社会」

J.レニー

わずかな血液から疾患遺伝子の有無を判定できるようになった今日,遺伝子診断の結果は個人や

社会に大きな波紋を投げかけている。

1994年9月号

 

P16「血管と老化」

年をとるにつれて確実に増えていく血管の病気。これは器官としての劣化による,避けられない

結末なのだろうか。血管の加齢と老化のメカニズムを,血管を構成する細胞を手掛かりに解き明かす研究が進んできた。

 

P19「血管の発生と老化」

中村裕昭

血管は,血液を循環させるために人体のすみずみまで張りめぐらされた管である。一見,単純な中空の

管であるが,1つの器官であり,始まりと終わりがある。

 

P26「内皮細胞の増殖制御と老化」

加治和彦

困難とされていたヒト内皮細胞の培養方法が確立され,血管内皮細胞の老化の研究が前進しつつある。

 

P32「動脈硬化と平滑筋細胞」

永井良三/相川真範/黒尾 誠

3種類のミオシンアイソフォーム,SM1,SM2,SMembの発見によって老化に伴って変化する平滑筋細胞の

姿が明らかになってきた。

 

P38「血管と細胞外マトリックス」

矢追義人

細胞外マトリックスは細胞の運動,分化,形態形成にとって重要である。さらに細胞増殖因子と

結合して,細胞内へのシグナル伝達にも関与している。

 

P44「アポロが残した科学の財産」

G.J.テイラー

25年前にアポロが月に到着し,岩石試料を持ち帰ったことによって,月と地球の進化についての

人類の知識が深まった。

 

P56「自己複製する分子の合成」

J.レベック

自分と同じ分子を作り,“突然変異”を起こし,資源をめぐって“競争”する人工有機分子は,

最初の生命体に関するヒントを与えてくれる。

 

P66「固形ガンにはなぜ薬が効かないのか」

R.K.ジャイン

生体内の多くの腫瘍は抗ガン剤の侵入に対して強固な障壁を作っている。この抵抗性を克服する

さまざまな方法が考えられるようになってきた。

 

P100「海牛類マナティー」

T.J.オウシェア

ゾウと共通の祖先をもつ大型水生草食動物のマナティーには,歯が一生涯生え変わり続ける,

基礎代謝率がきわめて低いなど,興味深い性質がいくつもある。

 

P110「東アジアの優れた複作農業」

F.ブレイ

途上国の食糧問題を克服する農業としては,機械化された欧米型の単作農業よりも,副産物を含めた

総収穫量の多い東アジアの複作農業の方が優れている。

 

P120「トレンド 意識は科学で説明できるか」

J.ホーガン

意識は科学実験の範疇を越えるものだとの考えが根強いが,さまざまな分野の研究者が一堂に会し,

意識を科学の対象にしようと真剣に議論を始めた。

1994年10月号

 

P16「サイエンス・ビュー 言葉の起源」

編集部ほか

人間が言葉を話し始めたのは,発生器官が豊富な音を出せるようになり,大脳が抽象的な事柄を

操れるようになるまで進化したころだろう。それは,数万年前から20万年前ごろの出来事だったようだ。

 

P18「サルは言葉をしゃべっているか」

正高信男

言葉に似た声を出すサルはいるが,外界の事者を意のままに表現できるのはヒトだけである。

 

P24「イルカの“言葉”」

竹村 暘

「イルカは知能が高く,音声で会話している」と,よく言われるが,この研究は現在どのように

なっているのだろうか。

 

P26「何が音声言語を可能にしたのか」

小嶋祥三

ヒト以外の霊長類は音声器官の構造から多様な音声が出せず,言語に関係の深い大脳左半球の

優位性もみられない。

 

P32「人類は20万年前に言語を獲得した」

竹岡俊樹

石器の制作は,音を文に組み上げる作業と同じであり,人類が石器を完成させた時代が,言語が

成立した時代でもある。

 

P39「社会的事件としての言語の誕生」

坂本百大

言語は,人間が社会や文化をもったときに出現した。その時,同時に,経済や法も出現したと思われる。

 

P44「実現した青色の高輝度発光ダイオード

中村修二

世界中の研究者が必死に取り組んできた熾烈な開発レースに決着がついた。成功へのカギは,既成の

さまざまな“常識”を破っていくことであった。

 

P56「極端紫外線で見た宇宙」

S.ボイヤー

米国が1992年に打ち上げた天文衛星は,観測しても見つからないと考えられていた天体の極端紫外線を

次々にとらえ,新しい問題を提起している。

 

P100「立体像が得られる共焦点顕微鏡」

J.W.リヒトマン

“人工知能の父”ミンスキーが30年以上前に考案した共焦点顕微鏡は,標本の内部を鮮明に

見ることができ,画像処理システムとつなげれば立体像も得られる。

 

P108「SQUIDによる微小磁場の計測」

J.クラーク

極めて小さな磁場の変化を検出する超伝導量子干渉計SQUIDは,脳や心臓の病変部位を突き止めたり,

相対性理論を検証したり,応用の幅が広い。

 

P120「細胞が抗原を提示するプロセス」

V.H.エンゲルハード

高等脊椎動物の免疫系が働くためには,抗原をT細胞が認識できるように提示しなければならない。

この抗原提示のプロセスがわかってきた。

 

P132「トレンド 女性の健康は守られているか」

M.ハロウェイ

先進国,発展途上国を問わず,女性の健康が軽んじられる傾向が強い。状況を改善するには,

望ましくない慣習や偏見,社会問題を直視する必要がある。

1994年11月号

 

P25「サイエンス・ビュー 分子触媒-変わる化学の世界」

編集部ほか

化合物の多くは,右手と左手のように形の違う異性体を持っている。著者たちは斬新な分子触媒を

設計し,どちらの不斉分子でも片方だけを大量に合成できる方法を編み出した。この一般性の高い

手法により,望みの立体構造を作り出すことも容易になった。形を自由に操れる新しいサイエンスの

膜開けである。

 

P26「完全化学反応の実現に向けて」

碇屋隆雄/橋口昌平/宮竹達也

分子触媒は決まった相手だけを分子認識する,均一な化学反応場でその機能を発揮する特徴を

併せもち,単一の化合物だけを高い効率でつくり出せる。

 

P34「キラリティーと不斉合成」

香月つとむ

有機分子の多くは立体であるがために異性体が存在する。分子触媒は望みの異性体を合成することが

できる。

 

P42「不斉増殖を可能にした分子触媒」

野依良治

遷移金属を含むキラルな分子触媒を使って,少量の不斉源から大量の光学活性物質が得られるように

なった。この不斉増殖法は多くの有用物質の工業化と創製研究を可能にした。

 

P56「プレートの沈み込みが引き起こす大陸の成長」

平 朝彦

日本列島や周辺海域の研究から,プレートの沈み込みによって生産されたマグマ物質の寄せ集めと,

そのリサイクル運動によって大陸地殻が作られたことがわかった。

 

P72「未知の素粒子を低エネルギー装置で探す」

D.B.クライン

標準理論にない未知の素粒子は重く,高エネルギー装置でないと生成できない。しかし,存在を示す

“証拠”は低エネルギー装置でも探すことができる。

 

P90「細胞がはいまわる仕組み」

T.P.ストッセル

細胞は,突起を出し,突起を収縮させて前進し,また突起を出す,という操作を繰り返してはいまわる。

この運動が起きる仕組みが分子レベルでわかってきた。

 

P118「解明された深発地震のパラドックス」

H.W.グリーン

400kmを越える深さで起きる地震がある。この深さのマントルは高い圧力下にあり,脆性破壊は

起こらない。このような深部でなぜ地震が起こるのかが,ようやく解明された。

 

P128「ライム病の治療と予防」

F.S.カンター

ライム病はダニが媒介する微生物が原因となって起きる。米国ではワクチンの臨床実験が始まった。

次の研究目標は,一部の患者で起きる慢性化を防ぐことである。

 

P136「ナポレオンのエジプト遠征の科学的重要性」

C.C.ギリスピー

エジプト侵攻に同行した科学者や技術者が持ち帰った輝かしいエジプト文明の遺産は,ヨーロッパの

物理学,化学,動物学の進歩に貢献した。

 

 

1994年12月号

 

P14「宇宙の中の生命

S.ワインバーグ

およそ1500億年前のビッグバンからはじまった宇宙は,どのような法則によって混沌の中からまとまり,

生命や人間の登場の場をつくったのだろうか。

 

P142「人類存続への道」

R.W.ケイツ

温暖化や人口増などが懸念されるが,技術や制度の進化,地球環境への関心の高まりによって,

環境的に持続可能な社会を建設できる。

 

P22「宇宙の進化」

 

P.J.E.ピーブルス/D.N.シュラム/E.L.ターナー/R.G.クロン

宇宙は,物質とエネルギーが高温高密度の状態から誕生した。このビッグバン以降,宇宙は膨張・

冷却し,銀河,星,惑星,そして生命が生まれた。

 

P30「元素の誕生」

R.P.カーシュナー

水素とヘリウムはビッグバンの激しい熱の中で生まれた。炭素,酸素,カルシウム,鉄など生命を

形作っている複雑な元素は,星の内部深くで合成された。

 

P40「地球と大気の進化」

C.J.アレグレ/S.H.シュナイダー

生命は,地球の誕生と大気の形成によって生まれた。地球上にあふれる生命は,その後の地球大気の

進化を方向づけただけでなく,地球の未来をも担っている。

 

P50「生命の起源」

L.E.オーゲル

最初の生命は,触媒活性をもち,自己複製能力のあるRNAから誕生したと思われる。そのような

RNAはどのように出現したのだろうか。

 

P60「生物の進化」

S.J.グールド

進化は偶然が大きく支配している。進化を進歩や複雑化の歩みと考えたり,大量絶滅を生き伸びた

生物が滅んだ生物よりも優れていたと考えるのは誤りである。

 

P108「地球外生命の探索」

C.セーガン

観測は有機物と水,および惑星系がありふれていることを示唆しており,宇宙のすべての場所が

生命の発生に適さない環境であるとは考えられない。

 

P120「知性の出現」

W.H.カルビン

物事を予期して計画を立てるという能力は,物を正確に投げる動作のような,すばやい動きの

組み立てを必要とした結果,生まれたのではないだろうか。

 

P132「ロボットは地球を受け継ぐか」

M.ミンスキー

将来は肉体と脳を機械で代替することが可能になり,人間は長寿とこれまで持ち得なかった知力を

手に入れるだろう。彼らは私たちの“心の子供たち”である。