日経サイエンス  2011年11月号

歴代受賞者の言葉で読む生命科学

DNAの合成

A. コーンバーグ(1959年ノーベル生理学・医学賞受賞)

私が共同研究者とともに,細胞が持つ酵素の助けを借りて細胞外で核酸を合成するのに初めて取り組んだのは1954年だった。その前年,ワトソン(James Watson)とクリック(Francis Crick)がDNAの二重螺旋モデルを提唱していた。DNAは,ある種のウイルスを除くすべての生命体が次の世代へと伝えていく遺伝情報を運んでいる核酸だ。私たちは1年足らずでこの目的を達成したが,完全な合成DNA,つまり天然のDNAを鋳型として使い,本来の生物学的活性をすべて備えたDNAの合成を報告できたのはつい数カ月前であり,先の実験から14年が経過していた。

 

私たちは1964年,生物学的活性を持つDNAを合成するのに,やはり遺伝的活性を備えたより単純な形態のDNAを利用できるのではないかと思いついた。これはΦX174など,一本鎖の環状DNAを持つウイルスで起こっている現象と同じだ。この“染色体”は構造的に簡単であるだけでなく,非常に小さい(円周は約2μm)ため切断なしに容易に抽出できる。

 

その後1年以内に,ΦX174のDNAを試験管内で合成することに成功した。手順は概ね以下のようなものだ。ΦX174から鋳型となるDNAを取得し,水素の放射性同位体であるトリチウム(三重水素)を使って標識する。それ以降,トリチウムがこの鋳型DNAを示すラベルとして働き続ける。この鋳型に, DNAポリメラーゼと純化したDAN結合酵素,補因子(ジホスホピリジンヌクレオチド)とともに,アデニン,チミン,グアニン,シトシンを加える。これらヌクレオシド三リン酸の1つは放射性のリン同位体で標識しておく。トリチウムが鋳型DNAのラベルとなるように,この放射性リンは合成物を示すラベルとなるわけだ。その後これら反応物の相互作用が進み,合成されたヌクレオチドの数が鋳型DNAのヌクレオチドの数とちょうど等しくなるまで反応が進む。鋳型のトリチウムからの放射線量と,合成のために供給したヌクレオチド中のリンからの放射線量を比較することで,合成ヌクレオチドの数が鋳型ヌクレオチドと等しくなったかどうかをすぐに判定できた。

 

こうした比較によって,相補的な合成環状DNAができるところまで反応が進んだことが示された。鋳型ループには(+),相補ループには(−)をつけて表記し,両者を区別する。この合成(−)ループが本当に閉じたループになっていることを示す必要があった。ポリメラーゼは鋳型ループ全体にくまなく作用したのか,そして鎖の両端は結合酵素によってきちんと結びついたのか? 電子顕微鏡などいくつかの物理的測定の結果,私たちが作った合成物はウイルスの鋳型DNAにぴったりくっついて閉じたループをなしていること,そして感染細胞のなかに生じる複製DNAとサイズその他の詳細がまったく同じであることが確認できた。

 

私たちはリゾチームという酵素によって細胞壁を除去した大腸菌に(−)ループを加えて培養した。これらを培地に“植えた”状態で,ウイルスが大腸菌の細胞を溶解する能力を見ることで感染性を評価した。私たちが合成したループは天然のウイルDNAが持っているのとほとんど同一の感染性パターンを示した。生物活性が実証されたのだ。

 

生きた細胞と動物のなかでDNA合成の開始と速度を支配している要因は何なのか,それを探る時が熟した。DNAの構造と合成に関する私たちの知識を人間の福利に直接役立てる展望がついに開けてきたといえる。これは遺伝子工学の領域であり,この大きな可能性を人間の生活の質の向上に役立てることが私たちみなの責任である。(編集部 訳)

 

原文は以下のSCIENTIFIC AMERICANのサイトで読めます。

http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=lindau-nobel-laureate-speak-in-scientific-american

著者

Arthur Kornberg

1959年ノーベル生理学・医学賞受賞。

原題名

The Synthesis of DNA(SCIENTIFIC AMERICAN October 1968)

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