日経サイエンス  2011年11月号

歴代受賞者の言葉で読む生命科学

生命の起源

A.リカルド J. W. ショスタク(2009年ノーベル生理学・医学賞受賞)

最近,DNAやRNAと同じような遺伝物質が自然に生成した可能性が示された。またこれらの分子はさまざまな形に折り畳まれて原始的な触媒として働くので,タンパク質がなくても自分自身を複製して増殖できるようになったと考えられる。
この概念に触発されて,私たちの研究室やマサチューセッツ工科大学のバーテル(David Bartel)の研究室は一連の実験を行った。“進化”によって新しいリボザイムを作り出したのだ。私たちは何兆個ものランダムなRNA配列を作り,そこから触媒活性を持つものを選び出して複製を作った。複製するたびに,新しいRNA鎖の一部では変異が起きて触媒活性が向上する。そこでもう一度,触媒活性の優れたものを選び出して,さらに複製を作った。こうした人為的な定向進化によって,リボザイムを作り出すことに成功した。私たちが得たリボザイムは,自分自身の配列を複製してRNAを作り出すにはほど遠いものの,他の比較的短いRNA鎖の複製を触媒することができる。

 

適切な材料さえあれば,プロトセルの形成はそれほど難しくなさそうだ。膜も遺伝物質のポリマーもそれぞれ自己組織化し,次にこの2つの要素がさまざまな方法で1つになる。例えばもとからあったポリマーの周りに膜が形成された可能性もある。水とRNAを含む小胞は成長し,新しい分子を吸収し,時には他の小胞から栄養素を奪って,分裂するだろう。だが生物になるには,増殖し進化する必要がある。
この過程はひとりでに始まったのではなく,ちょっとした助けがあったのかもしれない。例えば原始地球の地表は温度が低かったが(当時の太陽光の強さは現在の70%しかなかった),火山地帯だけは温かかったと考えてみよう。そこにあった水たまりは,表面は氷で覆われていたかもしれないが,地熱のために底の方は凍らずに温かかった。この温度差によって対流が生じ,水中のプロトセルは熱い岩の近くをときどき通過することになり,急激な温度上昇にさらされた。だが熱水が大量の冷水に混じると,その温度はあっという間に低下した。この急激な加熱によって二重らせんが分離して一本鎖になり,温度が低い場所に戻ると一本鎖が鋳型となって,もとの二重鎖の複製である新しい二重鎖が形成された。

 

環境からの刺激によってプロトセルが増殖し始めると,今度は進化が始まった。特に,ある時点で一部のRNA配列が変異し,RNAの複製を速めるリボザイムになった。これが競争においては有利となった。最終的にリボザイムは外からの助けなしにRNAを複製し始めた。その後タンパク質は,その驚くほど多様な能力によって,遺伝物質の複製と代謝を手助けするというリボザイムとしてのRNAの役割を引き継いだ。さらに,生物はDNAを作ることを“学習”し,遺伝情報を運ぶ頑丈な物質を手に入れた。この時点でRNAワールドは終わりを告げ,DNAワールドとなった。現在の私たちと同じ仕組みで増殖し進化する生物が,地球に誕生したのだ。(翻訳協力:千葉啓恵)

 

全文は日経サイエンス2009年12月号に掲載。
原文は以下のSCIENTIFIC AMERICANのサイトで読めます。
http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=lindau-nobel-laureate-speak-in-scientific-american

著者

Alonso Ricardo / Jack W. Szostak

ショスタクは2009年ノーベル生理学・医学賞受賞。

原題名

Life on Earth(SCIENTIFIC AMERICAN September 2009)

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