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ヒッチハイクする卵〜日経サイエンス2020年11月号より

マガモが食べた魚卵は排出されてちゃんと孵化する

 

孤立した湖や池に魚の卵がたどり着くのは,水鳥の羽や足にくっついて運ばれるからだろう――科学者たちは何百年も前からそう考えてきた。だが7月の米国科学アカデミー紀要に掲載された研究によると,少なくとも一部の卵の移動手段はもっと内密であるらしい。軟らかな膜に覆われた魚卵が鳥に食べられて排泄された後も,そこから生きた幼魚が孵化しうることが,初めて示された。

 

「誰もこんなことは考えていなかった。まったくばかげていると思えたから」と,ハンガリーのデブレツェンにあるドナウ研究所の生態学者で論文を共著したヴィンツ(Orsolya Vincze)はいう。「何かわかるだろうとは期待していたが,まさかという感じだった」。ハクチョウの糞からメダカの卵を回収して孵化させた2019年の研究が確かにあったものの,メダカの卵はとりわけ頑丈で長期の乾燥にも耐えられる。

 

ヴィンツらは通常の魚卵も鳥に食べられた状態で生き延びられるかもしれないと考えた。共同研究者で今回の論文の筆頭著者となったロバス=キス(Ádám Lovas-Kiss)が植物の軟組織が鳥の糞のなかで生きていることを観察したのがきっかけだった。

 

コイの卵をマガモに食べさせて実験

研究チームはこの直感を試すため,地元の畜産家から養殖マガモ8羽を,水産養殖研究所から2種類のコイの受精卵を入手した。各マガモにそれぞれの種のコイの卵を3g(約500個)ずつ別々に食べさせた。マガモの糞を調べたところ完全な卵が18個見つかったので,それらを水槽に入れた。うち12個は生きた胚を擁しており,3個が孵化して正常な幼魚が生まれた。

 

「私にとってこの研究は,簡単で理解しやすく再現しやすい実験手順を適用して意義の大きな結果を得られる科学的疑問が存在することを示している」と,ルーマニアのバベシュ・ボーヤイ大学の生態学者ハーテル(Tibor Hartel,この研究には加わっていない)はいう。

 

ヴィンツらは卵がこうしてうまく孵化する率は,卵を健全に保つのに適した環境になっている野生のほうが実験よりも高いだろうとみており,今後の実験で検証したいと考えている。また,もっと多様な魚種についてフォローアップ研究を行う計画だ。■

 

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