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毒ヘビに咬まれたときの錠剤〜日経サイエンス2020年10月号より

既存の重金属中毒治療薬が解毒剤治療までのつなぎになる

 

重金属中毒の治療薬が,毒ヘビに咬まれた際に生き延びる公算も高めてくれるようだ。5月のScience Translational Medicine誌に掲載された研究は,この薬剤をマウスに経口投与するとヘビ毒の作用を抑えられることを示している。

 

カーペットバイパー(ノコギリヘビ)はアジアとアフリカに生息する攻撃的な毒ヘビのグループだ。その生息地は人口密度が高いが近代的な医療施設が乏しい地域を含んでいる。「おそらく世界中のどのヘビよりも咬傷例とそれに伴う死者数が多い」とナイジェリアにあるバイェロ大学の感染症・熱帯病専門医ハビブ(Abdulrazaq Habib)はいう。このヘビの毒は咬まれた部位の周りの組織を破壊し,それが原因で指や手足,命を失う場合もあると付け加える。

 

ヘビ毒が作用するのに必要な金属を捕捉

このヘビ毒は「金属プロテアーゼ」という有害な酵素を含んでいる。この酵素の作用が組織損傷や内出血を引き起こすのだが,酵素が働くには亜鉛イオンが必要。「亜鉛イオンを捕捉すれば,毒素の活性を阻害して有害な影響を中和することができるだろうと考えた」と,今回の論文の筆頭著者となった英リバプール熱帯医学校の生化学者アルブレスク(Laura-Oana Albulescu)はいう。
 


Raju Kasambe

そこで重金属中毒の治療薬を調べた。遊離金属イオンをつかみ取って結合する化合物を利用した薬だ。「この研究を機に,重金属中毒の経口治療薬をヘビに咬まれたときの第一選択治療に転用可能であることが注目されるよう願っている。この可能性は以前から指摘されていたものの,本格的に開発された試しはなかった」とアルブレスクはいう。

 

同チームはまず,有望と思われる3種類の薬が複数種のカーペットバイパーの毒液の作用を阻害できることを実験室テストで示した。次にそれぞれの薬を,西アフリカのカーペットバイパーから採取した毒液を注射したマウス(典型的な致死量を投与)で試した。

 

薬剤の1つは「ユニチオール」と呼ばれるもので,毒液の注射から15分後に投与し,その1時間後に抗毒素を投与したところ,すべてのマウスが生き延びた。ユニチオールの単独投与や抗毒素だけを投与した場合には,救命できない例が残ったとアルブレスクはいう。この結果は,ユニチオールが毒ヘビ咬傷に対する初期の処置として有効で,搬送先の病院で治療を受けるまでの時間稼ぎになる可能性を示している。「報告された研究結果は非常に有望であり,研究チームは様々な現実的シナリオを考察している」とハビブは評する。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年10月号誌面でどうぞ。

 

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