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生体内に構造を組み立てる〜日経サイエンス2020年10月号より

特定の細胞の表面に導電性ポリマーを形成し,高精度の電気刺激などを可能に

 

生物の基本構成単位である細胞を利用し,生体内に材料や構造物を作らせることが可能になりそうだ。スタンフォード大学に所属する精神医学者・生物工学者のダイセロス(Karl Deisseroth)が率いて3月のScience誌に報告した研究は,特定の細胞に導電性(または絶縁性)のポリマーをその細胞表面に作らせる方法を示している。いずれは体内に大きな構造物を組み立てたり,義肢と脳の接続を改善したりするのに使えるかもしれない。

 

より中期的には,治療用電気パルスの送達などバイオエレクトロニック医薬に役立つ可能性がある。この分野の研究者はかねて,導電性または絶縁性のポリマーを周囲の組織に損傷を与えないように体内に埋め込む方法を探してきた。特定の細胞を刺激できれば(例えばてんかんの発作を防ぐために特定の脳細胞を刺激するなど),全身を薬漬けにして様々な副作用を生じかねない薬物療法よりもはるかに精密になる。だが現在のバイオエレクトロニックの手法は電極などを使っており,まだ多数の細胞に無差別に影響を及ぼしている。

 

化学反応を誘発する酵素を導入遺伝子で作る

今回の新手法は,目的の細胞種にウイルスを使って遺伝子を送達し,ある酵素をその細胞の表面上に作らせる。Apex2というこの酵素は,あらかじめ細胞間の隙間に注入しておいた前駆体分子と過酸化水素の間に化学反応を引き起こし,この反応によって前駆体が標的細胞の上でポリマーになる。

 

「様々な新興技術を組み合わせて1つの応用を開いた点が新しい」とScience誌の付随論評を共著したフロリダ大学の生体医療工学者オットー(Kevin Otto)は評する。「合成生物学の手法によって生体組織中に導電性ポリマーを作り出し,それを使って細胞特異的なインターフェースを可能にするというのは,実に斬新だ」。

 

同研究チームはこのプロセスを齧歯(げっし)類の脳細胞と人工的に培養したヒト脳のモデル,生きている線虫で試し,細胞の機能を追跡した。また,生きているマウスの脳にこれらの成分を注射し,毒性がないことを示した。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年10月号誌面でどうぞ。

 

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