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フィルム状のワクチン〜日経サイエンス2020年8月号より

常温で長期保存,輸送も簡単に

 

ワクチンが近くフィルムデビューを果たすかもしれない。フィルムといっても映画にデビューする話ではない。テキサス大学オースティン校の薬剤学の専門家クロイル(Maria Croyle)が率いるチームが,ワクチンなどの生物製剤を冷蔵なしで長期間保存する薄いシートを開発した。現在はワクチンをバイアル(ガラスの小瓶)に入れて注意深く冷やして出荷しているが,これが軽くて剥離可能なフィルムに置き換えられる可能性がある。そのフィルムを封筒に入れて郵送し,棚で保管できるようになるということだ。

 

クロイルの研究室は2007年にこの技術の開発を始めた。琥珀のなかで昆虫などの生物のDNAが保存されていることにヒントを得て,同様の物質の製造に乗り出した。「大量の糖と少量の塩を混ぜ合わせ,まるで飴玉づくりのようだった」という。この物質に加えたワクチンは経口投与になる。注射針が嫌いな多くの人にとって,おいしいニュースだ。

 

フィルムは成分を特定のワクチン候補のそれぞれに合わせて調整され,ワクチンの保護膜となる。「フィルムに何を内包させるにしろ,安定して保持するためにはすべての成分をしっかり混合するのが重要だとわかった」とクロイルはいう。この処理は手ごろな価格の標準的な卓上装置を使って短時間でできる。「開発途上国に移転できる手法を考案したかった」。

 

冷蔵不要でかさばらず

ワクチン接種の取り組みは,時に何千kmも離れた遠隔地までワクチンを低温(2~8℃)に維持して輸送することにかかっている。この輸送は困難で費用がかさむ場合があり,うまくいかずにワクチンが劣化することもある。

 

これに対しクロイルの剤形は,生きたウイルスや細菌,抗体を常温(20℃)で数カ月間保存できる。あるエボラ・ワクチンをこの形にし,36カ月後でも免疫応答を誘発できることを3月にScience Advances誌に発表した論文で示した。また,フィルムの形にしたインフルエンザ・ワクチンが在来の注射による接種と比べて遜色がないことも見いだした。「この研究はワクチン製品開発の画期的な基盤技術についての初期的な概念実証だ」とピッツバーグ大学の薬理学者ローハン(Lisa Rohan)は評する。将来の開発段階では,それぞれのワクチンのタイプごとに剤形を調整する必要があるだろうと指摘する。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年8月号誌面でどうぞ。

 

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