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南極の魚の血液ドーピング〜日経サイエンス2020年8月号より

氷水のなかで活動するため赤血球を通常の3倍に増強

 

スポーツ界では運動能力を高める血液ドーピングが禁じられている。筋肉に酸素を運ぶ赤血球の数を輸血などで増やす手法だ。だが多くの動物はこれを自然に行っている。ブタや海水魚,水中に潜るアザラシなどは,肉体的要求がきつい状況では血液が運ぶ酸素量を40~60%増やすことができる。最近の研究は,ボウズハゲギス(ボールド・ノトセン)という南極の魚が極寒の水中で活発に動くために,酸素運搬能力を3倍以上に増やせることを示している。

 

南極の多くの魚と同様,ボウズハゲギスの血液は極端な低温に耐えられるよう「不凍タンパク質」を含んでいる。だがこのタンパク質は赤血球とともに血液の粘性を高め,循環を妨げる。南極の魚のうち獲物を待ち伏せして捕まえる魚には,赤血球をなくして,海水中の酸素をエラと皮膚から直接吸収するように適応したものもいる。だがボウズハゲギスは凍った海面下でペンギンやアザラシなどの捕食動物から身をかわしつつ,オキアミなどの甲殻類を追いかけて活発に泳いでいる。この行動のため「筋肉への酸素供給を増やす必要がある」と,1月のJournal of Experimental Biology誌に今回の研究論文を共著したスウェーデンのヨーテボリ大学の心血管生理学者アクセルソン(Michael Axelsson)はいう。

 

赤血球濃度が9%から27%に

同研究チームはガラス水槽のなかでリラックスしているボウズハゲギスから採取した血液と,プラスチック管で“追い立てられた”ボウズハゲギスから採取した血液とで,赤血球レベルを比較した。休んでいた魚の赤血球濃度が9%だったのに対し,動いていた魚では27%で,血液の酸素運搬能力が207%も高まっていた。「赤血球レベルを2倍以上増やす魚や,休憩中にこれほど低いレベルに落とす魚はほかに見たことがない」とアクセルソンはいう。赤血球レベルがこれだけ低いと心臓への負担が減ると彼は付け加える。赤血球は脾臓に貯蔵されるが,研究チームはボウズハゲギスが脾臓から赤血球を血流中に送り出す際にこの臓器が収縮して重さが41%減ることを見いだした。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年8月号誌面でどうぞ。

 

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