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一枚上手の包帯〜日経サイエンス2020年6月号より

血液をはじく材料を利用,凝血を促進する効果も

 

破れた血管から大量の血液が流れ出る出血は,防ぐことができた死亡事例の主因となっている。包帯による結束では出血を止められないことが多い。だが最近,改良型の包帯が開発された。血液や細菌をはじき,素早い血液凝固を促し,傷口を再び開くことなしに取り外せる。

 

シンガポール国立大学とスイス連邦工科大学チューリヒ校の科学者たちは,医療器具向けに血液をはじくコーティング材を開発する過程で,カーボンナノファイバーとケイ素樹脂の混合物に予想外の効果を発見した。血液凝固を促進したのだ。そこで,この混合物を普通の木綿ガーゼにスプレーし,熱を加えて定着させた。

 

フィブリンの形成を促進

この新しい包帯は実験室試験とラットでの実験で「フィブリン」の産生を促進した。フィブリンは傷口に網状組織を作って血液凝固を助けるタンパク質だ。また,この包帯は血液をはじいて乾燥状態を保つので,傷から剥がしやすい。さらに大腸菌を含む液体を使った実験により,この材料には大腸菌が接着できないことが示された。昨年12月のNature Communications誌に報告。

 

研究論文を共著したシンガポール国立大学の生体医工学者ヤップ(Choon Hwai Yap)は,なぜカーボンナノファイバーがフィブリン形成を促進するのかを解明するにはさらに研究が必要だが,この材料は製作費が安く,大量生産も可能だと指摘する。「自動車事故や戦場での負傷など,重傷の治療を大きく変える可能性があると思う」という。「そうした状況では,流出した血液を吸収して人体から引き出すのではなく,血液をはじいて傷に押し戻すことによって出血を素早く止めるのが望ましい」。

 

ヘルシンキ大学の薬理学者カンクリ(Esko Kankuri,この研究には加わっていない)は,この包帯の実際の能力を証明するには臨床試験が必要だろうと注意する。「今回の研究はこの材料の血液に対する特性を観察した初めての結果であり,それも非常に鋭くて単純な傷に対するものだ。結果は非常に良好で有望だが,実験室の条件は実際の臨床現場とはまるで異なっている」。■

 

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