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抗生物質に新たな問題〜日経サイエンス2020年5月号より

ウシへの投与が炭素循環に影響する

 


BobMacInnes

抗生物質が初めて家畜に用いられた1940年代半ば以降,その妥当性をめぐって議論が続いている。昨年12月のEcology Letters誌に掲載された研究はこの議論に新たな視点を加えた。農家は堆肥を使って土壌の炭素分を高めるとともに植物が得られる栄養を増やしているが,この研究は,よく使われる2タイプの抗生物質を投与された乳牛の糞が土壌中の細菌と真菌の組成も変えていることを示した。この変化は植物が大気中の二酸化炭素(CO2)を固定して有機物に変換するプロセスに影響していた。つまり気候変動を緩和する戦略にも関わってくる。

 

この研究を率いたのは現在コロラド州立大学に所属するウェプキン(Carl Wepking)で,実験を行った当時はバージニア工科大学の大学院生だった。彼は毎月ウシの堆肥3タイプを袋に入れて草地に運び,それぞれを別の区画に1m2あたり648gまいた。実験開始から数カ月後,各区画を透明アクリル樹脂板の囲いで7日間覆い,炭素同位体で追跡用の標識をつけたCO2を注入した。

 

炭素利用を実際に追跡

抗生物質を投与していないウシの堆肥をまいた対照区画では圧倒的な効果が表れ,植物の成長が増進したほか,光合成で新たに固定された炭素が植物や土壌微生物に維持されたとウェプキンはいう。だが抗生物質を投与されたウシの堆肥をまいた2区画では,対照区画に比べて多くの炭素がCO2の形で再放出され,片方の放出量は対照の約2倍に達した。「ウシに抗生物質を与えたかどうかによって,植物中での炭素の動きが変わった。これは衝撃だ」とウェプキンはいう。

 

土壌は大気の約2倍の炭素を蓄えており,この貯蓄量を増やせば気候変動対策となる可能性がある。コロラド州立大学の土壌生態学者コトルフォ(Francesca Cotrufo,この研究には加わっていない)は,近年の気候モデルと炭素隔離モデルは微生物が土壌に炭素を貯蔵する効率に植物合成物が果たしている役割を考慮に入れるようになってきたという。今回の堆肥研究はすでに貯蔵ずみの炭素とは無関係だが,より最近に固定された炭素に関する抗生物質の影響を調べるというのは「新しく興味深い視点」であり,「間違いなく注目に値する」という。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年5月号誌面でどうぞ。

 

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