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役に立つ雑音〜日経サイエンス2020年5月号より

ホワイトノイズがあったほうが似た高さの音を聞き分けやすくなるようだ

 

聴覚処理の検査は静かな人工的環境で行われることが多いが,実生活はキーボードを叩く音やおしゃべりの声,自動車のクラクションといった背景音を伴っている。最近,背景音が存在する条件下で聴覚処理を調べる研究が始まった。具体的には,「ホワイトノイズ」という均一なヒス音を加えた環境だ。

 

直観に反する結果になったと,スイスにあるバーゼル大学の神経科学者バルカ(Tania Rinaldi Barkat)はいう。ホワイトノイズの背景雑音がある場合,マウスは聴力を損なうのではなく,同じような高さの音を容易に聞き分けるようになった。バルカが上席著者となったこの研究論文は昨年11月のCell Reports誌に発表。

 

ピアノの鍵盤の両端にある音を聞き分けるのは簡単だ。だが隣り合う鍵盤を弾いたら,耳の鋭い人でも聞き分けるのは難しいかもしれない。これは聴覚路が最も単純な音(単一の周波数による純音)を処理する方法に原因がある。脳の聴覚野で近くに位置しているニューロンは同じような高さ(周波数)の音に反応するが,個々のニューロンはある特定の周波数により強く反応する。ニューロンの反応度合いを周波数別に示したグラフは「同調曲線」と呼ばれ,この曲線のピークに対応する周波数が各ニューロンで異なっている。

 

同調曲線が鋭く

ホワイトノイズを加えると,マウスの聴覚ニューロンの同調曲線の幅が狭まることを研究チームは発見した。「単純化していうと,一定音量のホワイトノイズを背景雑音として流し続けると,それに重ねて再生した音に対するニューロンの反応が弱まる」とバルカはいう。この結果,同じ周波数の音に同時に反応するニューロンの数が減り,似たような高さの音を脳が区別しやすくなる。

 

研究チームはマウスが音の高さを区別できるかどうかを判別するため,ある特定の周波数の音が聞こえたら行動を起こすようマウスを訓練して実験した。マウスも人間と同様,高さが大きく異なる音を簡単に聞き分け,似たような高さの音には苦戦した。だがホワイトノイズを加えると,似たような音を以前よりもうまく区別できた。チームはさらに,ホワイトノイズを加えた際のマウスの聴覚皮質の神経活動を計測したほか,特定のニューロンに直接の刺激を加えて同調曲線の抑制を誘導して調べた。 (続く)

 

続きは現在発売中の2020年5月号誌面でどうぞ。

 

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