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原子の波で量子世界を探る〜日経サイエンス2020年4月号より

暗黒物質や重力波を探るMAGIS計画

 

極低温に冷やした原子を全長100mの真空チューブ中で落下させ,長さ数mの波に引き延ばすことで,自然を極めて小さなスケールで精査する実験の準備が進んでいる。原子の波の性質を利用して,奇妙な量子世界に生じる波紋を探す。なかなか見つからない暗黒物質(ダークマター)の痕跡や,将来は新たな振動数の重力波をとらえられるかもしれない。

 

8つの機関の研究者が協力し,米国イリノイ州の鉱山にある1本の立坑を「MAGIS-100」という世界最大の原子干渉計に変える計画だ(MAGISは「物質波原子グラジオメータ干渉センサー」の略)。最終設計を固めた後,2021年に計器を組み立て,レーザーを利用して微小なストロンチウム原子をマクロスケールの「原子波」に引き延ばす実験を始める予定。「2021年夏,あっと驚くことが始まる」とMAGIS-100の保有機関となる米国立フェルミ加速器研究所の主任研究員プランケット(Rob Plunkett)はいう。

 

官民合わせて1230万ドルの資金で実行するこのプロジェクトは,単独の大学による“卓上”実験と,数十億ドル・数十年をかける巨大プロジェクト(大型ハドロン衝突型加速器LHCやレーザー干渉計重力波天文台LIGOが代表的)の間を埋める精密研究の一例だ。暗黒物質に想定される質量と性質は極めて幅が広く,全範囲を探索するには「小スケールの研究も必要だ。すべての卵を1つのかごに入れてはいけない」とカナダにあるペリメーター理論物理学研究所の研究者アルヴァニターキ(Asimina Arvanitaki,MAGIS計画には加わっていない)はいう。

 

重ね合わせ状態の単一原子を引き延ばす

MAGIS-100はレーザーによって操作されている自由落下状態の原子を計測する。レーザーパルスで単一原子を刺激すると,原子がレーザーのエネルギーを吸収すると同時に吸収しない状態にすることができる。これは重ね合わせという量子特性のひとつで,「シュレーディンガーの猫」が生と死の混在した状態で存在するのと同じだ。量子力学的には,光子から野球のボールまであらゆるものが波の性質を持つ(ただし大きな物体では波の性質はふつう感知できない)。1個の原子がレーザーで適切に刺激されると,この波の性質によって原子が空間的に広がり,レーザーを吸収する部分が先行して落下する。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年4月号誌面でどうぞ。

 

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