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大腸菌でシロシビン生産〜日経サイエンス2020年3月号より

治療用の幻覚剤を効率的に

 


Alan Rockefeller

 幻覚剤の研究は何十年も前からタブーだったが,近年になってシロシビン(“マジックマッシュルーム”の活性成分)などの薬物がうつ病からニコチン依存まで様々な症状の治療に有望であることが臨床試験で示された。だがシロシビンを含むキノコを育てるには数カ月かかるので医薬品製造の方法として実際的ではなく,化学合成は手間がかかって高くつく。最近,遺伝子組み換え大腸菌によってこの幻覚剤を作り出す試みが成功した。

 

この組み換え大腸菌は培地1リットルにつき1.16gのシロシビンを作り出した。遺伝子組み換え生物による収量としては過去最高で,これまでの最高値に比べ10倍増だ。大規模化すれば,治療目的のシロシビンを製造できるだろう。

 

「最大の利点は他の方法と比べてコストが安いことだ」と,この研究を報告した論文の筆頭著者となったマイアミ大学(オハイオ州)の化学工学科の学部生アダムズ(Alexandra Adams)はいう。少なくとも他の製法と勝負できる水準だ。加えて,「大腸菌は他の生物よりも操作しやすい」。

 

アダムズらはミナミシビレタケ(Psilocybe cubensis)の3つの遺伝子を大腸菌に組み込み,安価で容易に入手できる前駆分子4-ヒドロキシインドールからシロシビンを合成させた。その後プロセスを最適化し,生産量を上げた。昨年12月のMetabolic Engineering誌に報告。

 

合成生物学の威力

過去に遺伝子組み換え真菌でシロシビンを生産する研究を率いた独イェーナ大学の微生物薬学者ホフマイスター(Dirk Hoffmeister)は,この研究を「興味深い代替法であり,合成生物学の威力と可能性を示す原理実証だ」と評する。だが,遺伝子組み換え細菌は有毒あるいはアレルギー性の物質を作り出すことがあるので,その場合には精製して除去する必要があると指摘する。アダムズによると,抗菌剤やインスリンなどの薬を作る細菌に用いられている実証ずみの工業的な技術を使うことで,そうしたリスクを避けられるという。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年3月号誌面でどうぞ。

 

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