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プラズマメスの威力〜日経サイエンス2020年2月号より

がん細胞を完全に一掃

 

外科手術で腫瘍を切除した際に一部のがん細胞が取り残され,別の悪性腫瘍のもとになる場合がある。これらの頑固な細胞を死滅させられる期待の新ツールの臨床試験が米国で始まった。「プラズマメス」だ。

 

このペンサイズのメスはヘリウムを小さなジェットにして噴射する。メスの先端にある電極によって,ヘリウム原子の一部が陽イオンと電子からなる鮮やかな薄紫色のプラズマ(電離ガス)になる。

 

太陽の燃え立つプラズマとは異なり,このメスのプラズマは運動が比較的遅いので,ジェットに触れても涼しいそよ風のように感じられる。だがプラズマ中の高速の電子にはエネルギーが詰まっており,空気中の酸素と窒素を超酸化物や一酸化窒素,原子状酸素といった化学反応を起こしやすいタイプに変えることができる。

 

これらの物質は細胞の重要な代謝経路を阻害して増殖を妨げる。また,がん細胞は正常な細胞に比べてこの影響をはるかに受けやすい。プラズマメスの使用は手術中に数分間,腫瘍部位を対象にするだけでよいと,ワシントンの外科医で開発チームの一員であるカナディー(Jerome Canady)はいう。「患部にプラズマを吹きつけるだけで,どんな微細な腫瘍も死滅する」という。

 

待ち望まれてきた応用

低温プラズマはすでに感染症の治療と外傷の消毒に使われており,より高エネルギーのプラズマは組織を巧妙に切断あるいは焼灼(しょうしゃく)できる。がん治療への応用は長年の目標であり,今回の臨床試験は大きな節目だとバージニア州にあるオールドドミニオン大学で低温プラズマの生物学的効果を研究しているラルーシ(Mounir Laroussi)はいう。「これは非常に大きな話だと思う」。

 

過去数年間,医師たちは3人の患者を対象に「コンパッショネート・ユース」としてプラズマメスを使用してきた(コンパッショネート・ユースとは,他のすべての治療法に効果がない場合に未承認の治療法を救済的に使うこと)。カナディーによるとこれらの患者では残存がん細胞をうまく死滅させられたが,本格的な臨床試験によって安全性と長期的効果に関する重要なデータが得られるだろう。臨床試験における初回の手術は2019年10月下旬に実施,最終的には膵臓・卵巣・乳房などの後期固形がん患者20人にプラズマメスを使用する計画だ。(続く)

 

続きは現在発売中の2020年2月号誌面でどうぞ。

 

 

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