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サソリ毒の秘密〜日経サイエンス2019年12月号より

危険な感染症の治療に使えそう

 

サソリを有益な動物だと思うことはまずない。だが,この蛛形類(クモの仲間)の毒から,ブドウ球菌や薬剤耐性結核菌の感染治療に有望な2種類の化合物が新たに分離された。

 

サソリ毒は非常に高価だ。1ミリリットルを採集するのに約1万300ドルかかると,6月の米国科学アカデミー紀要に発表された今回の論文の上級著者であるスタンフォード大学の化学者ゼア(Richard Zare)はいう。1匹のサソリから搾り取れる毒液は1回につき最大で千分の数ミリリットルほどしかなく,そのサソリが元通りの量の毒を回復するには2週間以上かかると彼は推測している。それでも,この毒液は調べるに値する。一部の構成成分には医学的に興味深い特性があり,研究室でもっと安く合成できる可能性がある。

 

黄色ブドウ球菌と結核菌に効果

メキシコ国立自治大学の研究チームは,メキシコ東部に生息するジプロセントルス・メリシ(Diplocentrus melici)というサソリから毒液を採取した。それまで調べられたことのない毒液だ。研究チームはこの毒液の成分を分離し,一部を黄色ブドウ球菌と大腸菌,結核菌に加えて試験した。2つの成分(分離後の色はたまたま片方が赤,他方は青となった)が黄色ブドウ球菌と結核菌を死滅させ,抗菌薬としての可能性を示した。

 

この分離化合物の少量のサンプルがスタンフォード大学のゼアのグループに送られ,組成と分子構造が決定された。その後,ゼアらはこの化合物を化学合成し,メキシコシティのサルバドール・ズビラン国立医学栄養学研究所に送った。

 

同研究所の病理学者が,結核に感染したマウスと黄色ブドウ球菌を保菌するヒト組織検体でこの化合物を試した。赤い化合物のほうが黄色ブドウ球菌の死滅に有効で,青いほうはマウスの肺内皮を傷つけることなく薬剤耐性株を含む結核菌に高い効果を示した。

 

毒素の医療利用を研究しているベイラー医科大学の分子生理学者・生物物理学者ビートン(Christine Beeton)は,この研究は有望に思えるという。ただし,もっと大きな動物で試す必要があるほか,人間での試験に必要な量を合成するのは難しい可能性があると注意を促している。■

 

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