News Scan

フォノンを量子ビットに〜日経サイエンス2019年12月号より

“音の粒子”を操る実験が成功

 

つかみどころのない“音の粒子”,フォノンの制御に米国の研究チームが成功した。フォノンは音波を構成している振動エネルギーの最小単位で,物質ではないが,光子(フォトン)が光の粒子であるようにフォノンも粒子とみなすことができる。光子は量子コンピューターの試作機で情報を担うのに使われている。光子の代わりに音を使うといくつかの利点がありそうなのだが,そのためには非常に微細なスケールでフォノンを操る必要があるだろう。

 

そうした制御は最近までできなかった。個々のフォノンを検出すると,それだけでフォノンが壊れてしまった。初期の手法は,フォノンを超電導量子ビットという回路中の電気に変換していた。この種の量子回路は特定の量のエネルギーを受け入れる。フォノンのエネルギーがその値に合致していれば回路はこれを吸収し,当のフォノンは破壊されるものの,回路のエネルギーの値がフォノンが存在したことを示す。

 

フォノンを壊さずに

JILA(米国立標準技術研究所とコロラド大学ボルダー校の共同研究機関)の科学者たちは超電導量子ビットのエネルギー単位を調整することで,フォノンが破壊されないようにした。振動に応じて電場を生じる特殊な材料を用い,フォノンが回路の電流を強めるようにした。それぞれのフォノンが電流をどれだけ変えたかを実際に検出できた。

 

「近年,超電導量子ビットを用いた光の量子状態制御に関して素晴らしい成功例が数多く報告されているが,私たちは光ではできないが音でできることは何かを追求した」と6月にPhysical Review X誌に掲載された研究論文の筆頭著者となったコロラド大学ボルダー校のスレットン(Lucas Sletten)はいう。

 

ひとつの違いは速度だ。音が伝わる速さは光よりもはるかに遅い。スレットンらはこれを利用して,電流を強めるフォノンと回路の相互作用を調整した。音を反射する2枚の“音響ミラー”の間に特定の波長(モードという)のフォノンを閉じ込め,音が往復するのに比較的長い時間がかかることを利用して正確な調整を実現した。鏡の間隔は毛髪の太さほど。光を同じように制御するとしたら,鏡をおよそ12m離す必要があるだろう。

 

また,音の“遅さ”は複数のモードを持つフォノンの識別も可能にする。スレットンによると,量子コンピューターは一般に超電導量子ビットを増やすことで処理能力を上げるが,1個の量子ビットでも複数モードで情報を処理できれば同様に処理能力を上げられる可能性がある。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年12月号誌面でどうぞ。

 

サイト内の関連記事を読む