きょうの日経サイエンス

2019年10月10日

2019年ノーベル化学賞:リチウムイオン電池の開発で吉野彰氏ら3氏に

2019年のノーベル化学賞は,繰り返し充電できるリチウムイオン電池を開発し,モバイル時代を開いた旭化成の吉野彰名誉フェロー,米テキサス大学のグッドイナフ(John B. Goodenough)教授,米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のウィッティンガム(Stanley Whittingham)卓越教授に授与される。

 

リチウムイオン電池の開発史は,1970年代に遡る。石油危機が叫ばれ,産油国が原油の価格を大幅に引き上げていた時代で,米の石油会社エクソンは石油に代わるエネルギーの研究を始めていた。そのころエクソンに入社したウィッティンガム氏は,分子の層間に原子が入り込む「インターカレーション」という現象を実証。二硫化タンタルという物質に様々なイオンを入れて電気特性を調べていたところ,カリウムイオンが入り込むと電位が非常に高くなることに気づいた。

 

電池は正極と負極の電位差が大きいほど,得られる電圧が大きくなる。ウィッティンガム氏はこの物質を正極として電池を作ろうと考えた。ただしタンタルは重くて電池には向かないので,性質が似ていて軽いチタンに変えた。負極には,あらゆる物質の中で最も電子を放出しやすいリチウムを使った。リチウムは負極で酸化して電子を放出し,リチウムイオンとなって電池の内部で正極に移動,硫化チタンに吸い込まれる。放電した後は外部から負極に電子を供給し,このプロセスを逆に回して充電する。ウィッティンガム氏が1976年に作成したこの二次電池が,リチウム電池の先駆けとなった。

 

図1 ウィッティンガム氏が作ったリチウム電池。正極は二流化チタン,負極は金属リチウム。

 

 

 

だがこの電池には問題が多かった。電池の充電を繰り返すと負極のリチウムの表面から針状結晶が伸びていき,正極に達するとショートして発火する。研究所に何度も消防署が出動する騒ぎになった。容量も小さく,用途はストップウォッチ用のソーラー電源だった。

 

 

そんなリチウム電池に変革をもたらしたのが,当時オックスフォード大学にいたグッドイナフ氏だ。グッドイナフ氏は硫化物より酸化物のほうがエネルギー密度が高く,イオンが抜けても壊れにくいと予想。東京大学から来ていた水島公一・現東芝エグゼクティブフェローとともに候補物質を探索した。そして,それまでの二硫化チタンに代えてコバルト酸リチウムを正極に使うことでそれまでの約2倍の4ボルトの電圧が得られることを見出し,実用化に大きく近づいた。

 

図2 グッドイナフ氏が開発したコバルト酸リチウムの正極により,電圧が4Vに高まった。

 

 

 

その後,原油の価格が下がると,欧米では二次電池の研究は下火になったが,日本では研究が続いていた。旭化成の吉野氏は1985年に,アルミ箔の集電体の上にインターカレーションをする物質を乗せて負極に用いることを考案。使う物質は導電性高分子のポリアセチレンなどを経て,炭素材料である石油コークスに行き着いた。こうしてリチウム電池から金属リチウムがなくなり,イオンのインターカレーションだけで動作するリチウムイオン電池が登場した。電極での化学反応がなくなって安全性が大きく向上したほか,充放電の回数も飛躍的に伸びた。

 

図3 吉野氏が負極を考案,リチウムイオンの出し入れだけで動作するリチウムイオン電池となった。

 

 

1991年に,ソニーが初のリチウムイオン電池を市場に出した。携帯電話やビデオカメラ,ノートパソコンなどに次々と搭載され,モバイル時代を牽引してきた。需要は現在も伸び続けており,さらに高性能化したポストリチウムイオン電池の開発競争が激しくなっている。

(古田彩)

 

image: ノーベル財団のプレスリリースを一部改変

 

詳しくは日経サイエンス2019年12月号(10月25日発売予定)でもご紹介いたします。こちらもどうぞ。

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