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培養細胞の評価,総合的に〜日経サイエンス2019年10月号より

角膜移植の予後も判定可能に

 

目の角膜移植に使う培養細胞の品質を評価する新手法を,京都大学の田中求特任教授(独ハイデルベルク大学教授)と山本暁久特定助教,京都府立医科大学の上野盛夫学内講師らの研究チームが開発した。微粒子の挙動などに関する「コロイド物理」の理論を応用したもので,培養中の細胞の評価に加えて,移植後に形成される組織が正常な状態を保てるかまで総合的に判定できるという。病状が再び悪化する前の段階で治療する「先制医療」の実現に役立つと期待している。論文が7月23日付の英科学誌Nature Biomedical Engineering(電子版)に掲載された。

 


京都大学の田中求特任教授(左)と京都府立医科大学の上野盛夫学内講師(右)

角膜は目の前面にある透明な組織。3層構造で,そのうちの内皮は大きさのそろった細胞(角膜内皮細胞)が密に詰まって全体の透明性を維持している。ところが,角膜内皮細胞は体内では増えにくいので,加齢や病気などで数が減ると失明することがある。角膜移植で治療するが,患者の負担が大きいほか,移植をしても細胞が再び減って再手術が必要な場合があるという。

 

京都府立医大はこれまでの研究で,米国アイバンクから提供された角膜内皮細胞を体外で培養して増やすことに成功。増やした細胞を患者に移植する再生医療を医師主導臨床試験(治験)として2017年に始めた。移植用の角膜内皮細胞は培養皿で増やし,それを株分けしてさらに培養する。だが,増やした細胞は大きさや形状が均一ではないので,現在はフローサイトメトリーと免疫染色という検査を実施し,培養細胞のタンパク質の発現パターンを調べて品質を評価している。

 

フローサイトメトリーは培養皿を交換する度に実施する必要があり,1回の検査で約10万個の培養細胞を消費する。これがコスト押し上げの要因になっていた。また,調べるタンパク質の発現パターンと再生する角膜の機能の間に直接相関がない点も問題だった。

 

研究チームは今回,培養細胞と移植後の角膜を統合的に評価できる数値指標の確立を目指した。注目したのが「細胞の集団秩序」だ。水の中や膜の上に微粒子が浮遊したコロイドは,微粒子の材質や大きさとは関係なく,引力と斥力のバランスで秩序だった構造を形成する。京大の田中特任教授らは,「粒子同士の物理的な相互作用は隣同士だけでなく遠距離にも及ぶ。細胞が集団として秩序構造を形成する仕組みも同じだ」と考えて研究を進めた。(続く)

 

続きは現在発売中の2019年10月号誌面でどうぞ。

 

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